例によってマイケル・ムーアらしい作風のドキュメンタリーである。題材に対する「中立性」などどこへやら、シナリオは確信犯的に反ブッシュ姿勢で貫かれており、ブッシュ政権の誕生から9.11を挟んでイラク戦争、そして果てしなく続く駐留という現実を、ときおりムーア特有のユーモアも絡めて描いている。
なかでもムーアがこだわったのが、9.11のずっと以前から続いていたビンラディン一族とブッシュ家との繋がりで、9.11直後の混乱期にアメリカに在住していた、ビンラディン一族を含むサウジアラビア人を大挙して出国させるという奇妙な決定がなぜ行われたのか、という疑問に執拗に食らいついていく。その繋がりは何と、ベトナム戦争当時の兵役逃れの頃から始まっていたのだ。その後、テキサスで油田採掘会社を興しては潰していた時期には、ビンラディン一族は彼の有力なスポンサーとして投資していた。ほとんど業績の上がらなかった会社だが、なにしろ彼の父は大統領である。繋がりを作っておくことが有利だと計算することに、何の不思議もないのだが・・・。
残念ながら映画ではそれ以上深く突っ込むことはなく、話題はイラク戦争にシフトしてしまう。当時オサマ・ビンラディンをかくまっていたとされるタリバン勢力への攻撃には、あまり熱意を見せなかったブッシュだが、なぜかイラク攻撃には異常なまでに執着し、査察では大量破壊兵器をただの一つとして発見できなかったのにも関わらず、2003年3月19日、遂に開戦へと至る。後になってみると不自然に見える開戦への流れの中でも、ムーアの視点はやはり「石油」の上に留まる。戦後、イラクの石油利権のほとんどを押さえたのは、ブッシュ政権関係者の関連企業だったからだ。つまり、9.11の前後は全て「石油」というキーワードでつながっていたのである。
タイトルは言うまでもなくレイ・ブラッドべりの名作「華氏451度」のパロディであり、ムーアはこれを「自由が燃える温度」としているが、単なる思いつきの域を出ておらず、前作「
ボウリング・フォー・コロンバイン」ほどの冴えは感じられない。ブッシュ政権もイラク駐留も継続中であるために「決着がついていない」感じがつきまとう。構成にもややもたつきが感じられ、未消化のままポンッと放り出されてしまった未完成品という感は免れない。同時代性は犠牲にしても、もう少し煮詰めた作品として仕上げたなら、もっと高いポイントを与えられたと思うのだが・・・
★★★

0