「機動戦士ガンダム0080ポケットの中の戦争/高山文彦;1989年オリジナルビデオアニメ作品」
アニメーション
それまで、テレビシリーズとして製作されてきたガンダムの初のOVA作品であり、また、長らくシリーズを総監督として纏めてきた、富野由悠季氏の手を初めて離れて製作されたガンダム作品でもある。
全6話、合計二時間半弱という短さは、シリーズものとしては異例だが(それまでのテレビシリーズはいずれもほぼ一年続く大河ドラマだった)おかげで、テーマのはっきりした珠玉の作品として仕上がっていた。現在まで続くガンダムシリーズの中で、これほどヒロイズムと無縁の作品も珍しい。
物語は、極秘裏に開発されていたニュータイプ用のガンダム(ホワイトベースに送られる予定ということは、アムロが使うはずだったのだろうか。いずれにしろ物語の終わりで一年戦争は終結してしまうので、結局のところ使われずじまいだったのかも)をめぐって暗躍するジオン軍特殊部隊の新兵(バーナード・ワイズマン=バーニィ)と、ひょんなことから彼と知りあいになってしまった小学生(アルフレッド・イズルハ=アル)との友情を絡めて、戦争の悲劇を正面から描いたもの。もともと戦記物の要素の強い一連のガンダム作品の中でも、本編は一、二を争うくらい本格的な戦争ドラマとして仕上がっている。
戦時だろうが平時だろうが子供はカッコイイ兵器が好きだ。一年戦争当時中立を保っていたサイド6(それにしても、ホワイトベース入港の際にもあれほど神経質だったサイド6政府が、よりによって連邦軍の新兵器開発基地を置かせるとはちょっと思えないが)の子供たちにしても、それは同じことだ。突然出現したジオン軍のザクを目撃した彼らにとって、身近に迫った戦争の恐怖より、本物の兵器への興味が先に立つのは当然なのだ。その辺の心理を物語は巧みに描き、ジオン軍の協力者になっていくアルをごく自然に描くことに成功している。
以下ネタバレあり、まだ観てない人は読まないように
やがてバーニィたちジオン軍の特殊部隊は奇襲に失敗し、バーニィひとりを残して全滅してしまう。一時はサイド6を離れ、国に帰ることを決意するバーニィだったが、ガンダム一機を破壊するために、ジオン軍が南極条約で禁じられた核攻撃を仕掛けようとしているのを知って、その前に独力で何とかガンダムを撃破しようと決意するのだった。しかし、実戦経験に乏しく、また乗機が性能的にも劣るザクでは、戦う前から結果は見えていた。
すべてが終った後、あいかわらず軍オタ的会話に興じる同級生に対し、ただ泣くことしかできないアルを描くことで、彼の「人」としての成長を見せたテクニックはなかなかのものである。物語の構図、つまり、バーニィが倒そうとしていたガンダムを誰が操縦していたのか、それを知る者はアルひとりであり、その秘密を結局彼は誰に明かすこともなく、物語は終る。この判断ができるアルはすでにもう子供ではないのだ。
サイドストーリィとはかくあるべき、という見本のような作品といっていいだろう。・・・
★★★★

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