「お買い物/中島由貴;2009年テレビドラマ作品」
テレビ番組
民放の映画を観ようか、バラエティを観ようか迷っているうちに始まってしまったNHKのドラマ。老人問題に切り込んでいきそうな重いタッチのオープニングに、一瞬チャンネルを替えようかと思ったのだが、その後の軽妙な展開の術中にすっかりハマり、結局最後まで観てしまった^^;
福島の田舎に住むおじいさん(久米明)の若い頃の趣味はカメラ。おりしも渋谷で開催される中古カメラ市のダイレクトメールが届いたことで、おばあさん(渡辺美佐子)と一緒に久しぶりに東京に出かけることになる。しかし、なにせ東京に行くのは20年ぶり、行く先々で戸惑うことばかり。
鉄ちゃん的には、東京に向かう二人が乗った「スペーシア」の個室コンパートメントが興味深かった。動く密室になるコンパートメントは、ミステリーなどではお馴染みだが、普通のドラマの中でまったく日常的に使われる、という設定は非常に珍しいのではなかろうか。
渋谷に着いた二人は珍道中のあげく(コーヒーショップでのエピソードは秀逸^^;)どうにかカメラ市にはたどり着くものの、最初は見るだけのつもりだったカメラがどうしても欲しくなったおじいさんは、ホテル代として用意してきたお金を使い果たしてカメラを買ってしまった。そのカメラは昔、一台で家が買えるほど高価だったものなのだが、今では8万円台という、ちょっと頑張ればなんとか手を出せる価格まで「落ちぶれて」いたのだった。
しかし、おかげで宿泊費がなくなってしまった二人は、しかたなく孫娘(市川実日子)に連絡をとり、彼女の部屋に一泊することになる・・・。
とにかく、主演の二人が抜群にいい。歳をとり、いくらかぼけの始まったおじいさんを演じた久米明は、演技者としてより味のあるナレーションで一時代をなした人だが、さすがにキャリアを感じさせるリアルな老人像を演じて見せた。また、糟糠の妻を演じた渡辺美佐子も、しっかりしているようで肝心なところでドジったりはするものの、おじいさんのわがままに振り回されながらも、結局はいつも折れて優しい目で見守る素敵な伴侶ぶりを見せてくれた。今風に言えば、「カワイイ」二人なのである。
そして、孫娘を演じた市川実日子もまた、いかにも現代っ子(死語?)らしい見た目に似合わず、ごく自然に素直に二人をもてなす、という簡単なようで難しい役柄を、彼女らしい説得力で表現し切った。ドラマの中で孫娘の職業は描かれないが、部屋に服飾用のトルソーがあったところから、おそらくアパレル関係のキャリア・ウーマンという設定なのだろう。
ドラマといいながら、いかにもドラマらしいドラマチックな盛り上がりひとつないストーリィだが、にもかかわらずがっちり視聴者を掴んで放さない脚本は、若手劇作家の前田司郎によるもの。隅々まで丁寧に作られながらも淡々とした日常描写は、まったくスタイルは違うものの、平成の小津作品とも呼べそうな味わいになった。・・・
★★★★

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