私は、今から3ヶ月程前の
昨年11月2日にこのブログにアップした記事の中で、JR北海道が経営危機に陥っている問題について、私の思う所をいろいろと述べさせて頂きましたが、今回の記事は、その記事の続編となる内容で、その記事と今回の記事とでは内容的に一部重複する箇所もありますが、その点は御容赦下さい。
さて、昨年11月にその記事をアップして以降も、この件に関しては良くも悪くも、いろいろと大きな動きがありました。
12月には、JR北海道が日高本線の鵡川〜様似間の復旧を断念する(暫定としてではなく正式にバス転換する)と発表して、同線沿線の自治体が反発を強め、1月には、現状のままだどJR北海道は資金不足から3年後に全線の運行が不可能になる(事実上、北海道の鉄道が破綻する)と報道されて沿線の自治体や住民に大きな衝撃が走り、その一方で、今月に入ってからは、北海道庁の有識者会議「鉄道ネットワークワーキングチーム」が石北本線と宗谷本線については今後も維持すべきという結論を出すなどの、いくつかの大きな動きが見られました。
これは前出の昨年11月の記事でも言わせて頂きましたが、まず私が思うのは、「みんな、必要以上にJR北海道を叩き過ぎ」という事です。もっとはっきり言うと、「このような事態になってしまったのは、JR一社のみの責任ではなく、本来は路線の維持に協力すべき沿線の自治体などにもかなりの責任があったのでは」という事です。
つまり、北海道や沿線市町村などの自治体は、“無い袖は振れない”という単純な理屈をJRには認めず、そのくせ、あなた達が負担をしなければならないと言われた時は“無い袖は振れない”としてほとんどまともにお金を出さず、その傲岸不遜な態度がJRをここまで追い詰める結果になったという一面は確実にあると思うのです。
私は別にJRの回し者ではないので(笑)、過度にJRの肩を持つ気はありません。当然の事ながら、JRの側にも、いろいろと問題があったのは確かです。
JR発足以降、JR北海道はほぼ高速化のみに事業展開し、その結果、安全対策は二の次となり、幸いにして乗客に死者こそ出なかったもののいくつもの重大な事故が発生する事となり、また、赤字線区の整理もほとんどしてきませんでした。
北海道新幹線の暫定開業を控えて3年前に江差線の一部区間(木古内〜江差間)が廃線となりましたが、それまでは、国鉄時代に廃止が決まっていた路線を除くと、整理出来たのは深名線だけでした。
この度の経営危機についても、それは後述するようにJRの努力だけで避けられたような問題で無かった事は確かですが、明らかに、その過程や対応には問題がありました。諸々の事故が発生する前に、もっと積極的に対策や公表をすべきだったとは思います。まぁ、これは結果論に過ぎないかもしれませんが。
ちなみに、以下の写真は、1枚目が深名線の朱鞠内駅、2枚目が江差線の江差駅で撮影されたもので、前述のようにいずれも現在は廃線となっている区間の駅です。
繰り返しますが、JR北海道にも勿論責任はあります。それは決して否定出来ません。
しかし、それらを踏まえた上でも、JR北海道の経営危機を、同社一社の責任として片付けようとするのは、かなり乱暴です。ネット上の掲示板などでは、今でもまだ、以下のような、JR北海道を吊し上げるかのような意見が呟かれており、正直げんなりさせられます。
「JR九州は頑張ってるのに、どうしてこうなったんだろう」
「経費を削減したうえで、廃止か値上げかを住民に問え」
「すし詰め満員電車のJR東日本と合併すればOK」
「むしろ一度潰して出直したほうがよい」
「分割民営化のときから北海道が不利なことはあきらかだった。政策ミスのツケが回ってきただけ」
以下に、これら上記の意見に対して、私の思う事(反論や同意)をそれぞれ列記します。長文となりますが、お時間のある方はお付き合い戴ければ幸いです。
【反論】JR九州は頑張ってるのに、どうしてこうなった?
「JR九州は頑張ってるのに」とか「JR九州は上場を果たすまで成長したのに」といった言い方、つまりJR北海道とJR九州の現状を比較してJR北海道を批判するという論法には、そもそも無理があります。
なぜなら、いくら“三島会社”と一括りされる事があるとはいえ、JR北海道とJR九州とでは条件が違い過ぎるからです。具体的に言うと、九州には1323万人もの人がいて、JR九州は2273kmの路線を運行していますが、北海道には547万人の人しかおらず、それでいてJR北海道は2552kmという長大な路線を運行しているのです。
そもそも北海道と九州とでは、人口密度が全然違い(北海道の人口密度は、全国平均の5分の1)、しかも、北海道は九州以上に人口分布に激しい偏りがあります(札幌市の人口は約190万人で、九州第一の都市である福岡市よりも上位の、全国でも人口第5位の巨大都市ですが、北海道には他に人口50万人以上の都市が存在せず、しかも、道内で第2位の旭川市と第3位の函館市は共に人口が減少傾向にあります)。
つまり、公共交通機関にとって経営を大きく左右する要素である人口密度や人口分布が、北海道は著しく不利なのです。
JR九州はうまくやっているではないか、上場まで果たしたではないか、それに対してJR北海道は努力が足りない、などと言う人は、こういった基本的なデータを知らない(もしくは、最初から調べる気もない)のだと思います。
「JR九州は鉄道事業以外で黒字を出し、それが本業である鉄道事業の赤字をカバーして上場にまで至ったのだから、JR北海道も本業以外でもっと努力すべきだ」なんて言う人もいますが、そんな事は今更指摘されるまでもなくJR北海道は地道に努力していますし、それに、JR九州が鉄道事業以外で成果を挙げる事が出来たのも、人口密度や人口分布が、北海道より九州のほうが遙かに有利であったからという点は否定出来ません。
更に付け加えると、JR九州は、発足時から九州自動車道などの高速道路網の整備が進められていたため、それらの高速道路を利用するマイカーや、主要都市間を結ぶ高速バスとの激しい競合に晒されており、その熾烈な競争を生き抜いてきたJR九州の経営努力や営業には私も大いに敬意を払いますが、しかし、管轄エリア内でマイカーや高速バスと競争を強いられてきたのはJR北海道やJR四国も全く同じであり、JR九州だけが格別に不利だったというわけではありません。
しかもJR北海道の場合は、それらの不利な条件に加えて、道内の各空港を連絡する航空機とも競争をしなければならなかったので(北海道は面積が広大であるため、JRの長距離特急が運行されている区間とほぼ同じ区間に、重複するように航空路線も開設されています)、その点でも、三島会社の中ではやはりJR北海道が最もハンデを背負っていました。
ですから、私は個人的にそこまでは思っていませんが、逆の見方をすると、これはかなりキツイ言い方になるのですが「JR九州はJR北海道よりもこんな有利な状況にあるのに、なんで上場まで30年近くもかかったの」という見方だって、出来なくはないのです。
繰り返しますが、これはあくまでも、そういう見方が出来ない事もない、という事であって、私自身は別にそこまでは考えていませんが。
【反論】経費を削減したうえで、廃止か値上げかを住民に問え?
「もっと経費を削減しろ」というのは、一見正論ではありますが、それを突き詰めていくと、麻生太郎財務相も言うように(麻生氏のコメントについては後述します)、鉄道事業者として最も大切な安全対策に支障が出る事になります。
そもそもJR北海道は、社員数を発足当初の13,000人からほぼ半減させ、無人駅化も進めており、現在では全駅の4分の3以上を無人駅が占めるまでになっており、経費の削減はかなり進められています。
しかし、そのように人件費はある程度削る事が出来ても、経年による設備や車両の更新はどうしても避ける事が出来ず、駅・橋・トンネルなどの老朽化は確実に進んでおり、国鉄時代から使い続けてきた車両も、そろそろ寿命を迎えつつあるのが現状です。
また、北海道特有の事情として、北海道全体が厳しい寒冷地であるという点も、無視は出来ません。寒冷地であるが故の、どうしても削減出来ない莫大な出費や労力というものがあり、これは、他の三島会社であるJR九州やJR四国に比べて、JR北海道にとっては大きな負担になっています。
具体的に言うと、冬期は、耐寒・対雪を特別に強化した車両でなくては運用が不可能(全ての車両が厳冬期に於いても性能の余裕が確保された設計となっています)で、昼夜の別なく、線路や駅等各種施設の除雪も必要になります。
もっと詳細に述べると、JR北海道は、ラッセル式の除雪車両であるDE15形ディーゼル機関車などとは別に、ラッセルモーターカー4編成8台、排雪モーターカー52台、排雪モーターカーロータリー66台などを全道各地に配備し、冬期はこれらを運用して鉄路の維持に努めています。
更に、機械化出来ない場所に於ける人力による雪害対策(駅構内の除雪、全道各地に点在する約1500箇所の踏切の除雪、車両に付着した雪の融雪作業、トンネル内のつらら落としや結氷除去作業など)、吹き溜まり等による輸送障害を防止するための駅間吹き溜まり対策(防雪柵の設置、降雪モニターカメラの設置とその運用)、ポイント不転換対策(ポイントに付着した氷塊・雪などでポイントや信号が正常に作動しなくなる事を防ぐ)として融雪ピット・ポイントマットヒーター・圧縮空気式ポイント除雪装置などをポイントに設置する作業、車両運用の安定化を図るために行う車輪路面管理の徹底(冬期は車輪と制輪子間の凍結などにより車輪路面にキズが発生しやすい)、駅ディスプレイの有効活用等による情報提供の強化(降雪状況や運休列車等について乗客に対する情報提供の強化を進める)などの作業もあり、冬季の鉄道施設維持のための作業は膨大な量となります。
JR九州と比較してJR北海道を批判する人達は、大抵、こういった北海道特有の事情は考慮していないようです。
更に、もっと根本的な事を指摘すると、仮にそういった冬期の事情を考慮しなかったとしても(北海道がもし寒冷地ではなかったとしても)、JR北海道が赤字経営になってしまうのは、どう考えても、そもそも“当たり前”なのです。
首都圏・関西圏・中京圏など人口密度が極端に高い大都市圏であれば別かもしれませんが、それ以外の地域(特に全国的にも人口密度が極端に低い地方)で、そもそも一鉄道会社に、線路・駅・橋・トンネル・信号設備などインフラの維持コストを含めて黒字で経営しろという発想に、明らかに無理があるからです。
もしバス会社に、そのバスが走る道路・橋・トンネル全ての整備や信号機の費用を負担させたら、経営が成り立たなくなるのは明かです。しかしJRに対しては、その公益性の高さの割には「関連する施設は全部自分達で維持するように」と、極端なまでに自己完結能力が求められているのです。
【反論】JR東日本と合併すればOK?
JR東日本とJR北海道の営業エリアは津軽海峡を挟んでと隣接しており、両社は青函トンネルを介して新幹線・在来線共に線路も繋がっていて、新幹線に於いては、昨年3月から相互直通運転も実施しています。
しかも、そのJR東日本は、JRグループの中では最も企業規模が大きく、輸送人員数(1日の利用者は1600万人)だけに着目すれば、世界でも最大規模の鉄道会社といえます。
ですから、「JR東日本がJR北海道を吸収合併してくれれば良いのでは」という意見については、北海道の危機的な現況を踏まえると私も全く理解出来ないわけでないですし、実際それが実現されると、少なくとも北海道の側にとっては、確かに救われる面があると思います。
しかしJR東日本にとっては、現在既にズタボロな状態で、これからも慢性的に営業赤字が見込まれるような会社(JR北海道)を吸収合併する事は、単に“火中の栗を拾う”行為でしかなく、デメリットに比べると余りにもメリットが少な過ぎるので、やはり現実的な案とは言えないでしょう。
もし仮に、JR東日本の執行部がそういった方向に動こうとしても(そんな事は無いでしょうけど)、会社の利益にはならない以上、JR東日本の株主達は当然反対するでしょうし、それに、JR北海道の赤字を引き受ける事で首都圏などのJR線運賃が値上げされるような事にでもなったら、東京の利用者達からも反対の声が挙がる事でしょう。
ちなみに、同様の理由から、仮にJR四国が経営難に陥ったとしても(既にそれに近い状態にはなっているような気もしますが)、隣接するJR西日本(言うまでもなく、こちらも日本有数の大企業)が、JR四国を吸収合併するような事は無いだろうと思います。
【反論】むしろ一度潰して出直したほうがよい?
「JR北海道は一度潰れたほうがいい」といった類いの意見について私が思う事を一言で言うと、「は?潰してどうするの?それで誰か得する人いるの?」に尽きます。
JR北海道を潰したら、その翌日から、JR北海道の路線だった区間での営業を、どこか別の会社が引き継いでくれるという事なのでしょうか?
その場合、中小の鉄道事業者では、国内の鉄道としては有数の規模を誇るJR北海道の全線区や全車両はとても維持出来ないので、大手の鉄道事業者の参入を期待する事になりますが、近鉄とか阪急とか、あるいは名鉄とか、もしくは東武、西武、京急、京成などの大手私鉄が、北海道の鉄道事業に参入してくれるなんて夢みたいな出来事、誰がどう考えたって100%あるわけないです。
そもそも、私鉄の参入が期待出来る程北海道に鉄道の需要があるのなら、JR北海道はここまでの経営危機には陥っていないです。
それとも、「JR北海道は潰れたほうがいい」という意見は、既存の私鉄が北海道に参入する事を期待するのはなく、JR北海道を潰した上で、その後継会社となる新たな鉄道会社を北海道に立ち上げるべきだ、という意味なのでしょうか。
仮にそうであったとしても、やはりこの意見は無意味です。なぜなら、組織の名前や体裁を変えたとしても、結局“中の人”は今までとほぼ変わらない事になるからです。形として、経営者の一部が入れ替わったとしても、実際に営業に従事する人を誰にするかについては、検討の余地無く、JR北海道の現在の社員達に決まっているからです。
実際、国鉄がJRへと衣替えした時も、全員が入れ替わったわけではなく、当時の役員・社員達の大半は、国鉄からそのまま引き継がれた人達でした。それが最も効率的で現実的なのですから、そうなるのは当然です。
しかしそうなると、JR北海道を潰して新たな会社を立ち上げる事(事実上、単に会社の看板を付け替えるだけの事)に、一体どれだけのメリットがあるのか、そのためにかかる莫大な費用は、ローカル線区の維持などもっと有効な事に活用すべきではないか、といった声が、当然噴出してくる事になるでしょう。
【同意】分割民営化のときから北海道は不利。政策ミスのツケが回ってきただけ!
この意見については、これら一連の意見の中では、私が唯一賛同出来るものです。これはニュースでも報じられましたが、副総理を兼ねる麻生太郎財務相も、昨日の衆議院予算委員会で、JR北海道の経営危機問題について以下のように言っておられました。
『
この話は商売の分かっていない「学校秀才」が考えるとこういう事になるという典型ですよ。国鉄を7分割(・民営化)して「黒字になるのは三つで、他の所はならない」と当時から鉄道関係者は例外なく思っていましたよ。「分割は反対」と。経営の分かっていない人がやるとこういう事になるんだなと思ったが、僕は当時力が無かった。今だったら止められたかもしれないとつくづく思う。JR北海道をどうするという話は、なかなか根本的なところを触らずしてやるのは無理だろう。』
また麻生氏は、JR北海道の赤字を埋めるはずだった経営安定基金の運用益が国の当初見込みを大幅に下回り、国は安全投資などの形で一部を補填している事についても、「
基本的に赤字体質は変わっていない。黒字化しようとメンテナンスで経費を節減すれば安全性が落ちる」と述べて、独立採算を原則とする経営の在り方にまで疑問を呈し、JR北海道の経営再建に国として積極的に関与する必要性も示唆しました。
前述のように、北海道での鉄道事業は、基本的に赤字にしか成り得ません。そもそも、北海道に限らず地方の鉄道事業は、黒字は出にくい構造です。一時的に若干の黒字にはなったとしても、車両や施設の更新時期を迎えると、また新規の莫大な投資が必要になるのですから。
そのため海外では、線路などのインフラ部分は公的資金で賄い、鉄道事業者は運行サービスに集中する「
上下分離方式」が、今や“常識”です。麻生氏の見解も、こういった“常識”を踏まえてのものです。
日本は高度経済成長と都市部への極端な人口集中によって、例外的且つ一時的に、鉄道事業者の黒字経営が実現しましたが、生産年齢人口が減り始めた低成長の時代にも引き続きそれを求めるのは、もはや“非常識”と言えます。
というわけで、私としては別にJRの肩を持つ気はないものの、結果的にはJRを擁護するような感じで、自分の思う事をいろいろと書き連ねさせて頂きましたが、では結局今後どうすれば良いのか、というと、私の結論としては、これは極論になるかもしれませんが、道内のJR線は、国や道が積極的に関わって今後も維持する(公共財源を突っ込んで存続させる)か、もしくは、JR北海道一社に全ての責任を押しつけて経営を完全に破綻させる(何もしないで放置して鉄道全廃への道を進む)か、その二者択一しかないと思います。
今後も北海道の鉄道を維持するのであれば、具体的には、JR線の線路や施設などは北海道や沿線の自治体などが保有し、JR北海道は第二種鉄道事業者として列車の運転といった営業に特化した会社として再生を図る「上下分離方式」を導入するしかないでしょう。
その場合、東北新幹線の延伸開業によりJR東日本の東北本線から経営分離されて発足した第三セクター鉄道「青い森鉄道」の事例(線路などの施設は青森県が第三種鉄道事業者として保有し、青い森鉄道は第二種鉄道事業者としてその線路を使用して鉄道事業を営む)などはかなり参考になるでしょうし、実際、上下分離方式の導入については、JR北海道からも沿線自治体に提案されています。
しかし現状では、それを導入すると財政的な負担が大きくなる自治体の側から、賛同が得られていません。
どこの自治体だって財政難にある事は、誰だって知っています。ですから、自治体の立場としては、上下分離方式を簡単には受け入れられないという事情は、私にも分かります。
しかし、JRがお金が無いと言う時は“上から目線”で「何とかしろ!」と言うくせに、上下分離でインフラは自治体が保有してと言われると「ウチはお金が無いから無理!」と言うのは、単なるワガママにも映ります。
道内のローカル線区の沿線自治体は、規模が規模ですから、確かに必要とされる全額を出すのは難しでしょうが、それでもせめて、少しだけでも出して協力するという姿勢くらいは見せても良いと思います。
それをしないのであれば、かなり辛辣な結論となってしまい恐縮ですが、残念ながらその線区の廃線は仕方がない、自治体の自業自得、と言えるのではないでしょうか。

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