国鉄が解体され、その継承法人であるJR各社が発足してから、今月で、丁度30年が経ちました。
政府が100%出資する公共企業体(公社)として昭和24年に発足した「日本国有鉄道」、通称「国鉄」は、全国の旅客輸送・物流を担う我が国最大規模の鉄道事業者として、戦後の復興期や高度経済成長期の日本を支え、日本経済の発展や国民生活の向上に多大な貢献をしてきました。
しかし、東海道新幹線が開業した昭和39年以降は赤字に転落し、以後は様々な問題が生じて(その問題の具体的な詳細についてはここでは省略しますが)国鉄の経営は完全に破綻し、最終的には37兆円という途方もない巨額の累積債務を抱えるに至り(利払いだけでも年1兆円を超えていました)、昭和57年、鈴木内閣は国鉄を解体し分割民営化を進める事を閣議決定しました。
そういった経緯を経て、昭和62年3月31日、国鉄は、分割民営化の施行によりついに“最後の日”を迎え、その日を以て、戦後に発足した公共企業体「日本国有鉄道」としては38年、戦前の鉄道省時代も含めると国営の鉄道としては115年の歴史に、ピリオドが打たれました。
そして、日付が変わった翌4月1日の午前0時、国鉄の事業をそれぞれ継承した「北海道旅客鉄道(JR北海道)」「東日本旅客鉄道(JR東日本)」「東海旅客鉄道(JR東海)」「西日本旅客鉄道(JR西日本)」「四国旅客鉄道(JR四国)」「九州旅客鉄道(JR九州)」「日本貨物鉄道(JR貨物)」「国鉄清算事業団(平成10年に解散)」が発足し、前年に設立済みの「鉄道総合技術研究所(JR総研)」「鉄道情報システム(JRシステム)」「鉄道通信(現ソフトバンクテレコム)」「新幹線鉄道保有機構(平成3年に解散)」と合わせ、新生「JR」グループがスタートを切りました。
発足から30年を迎え、JRグループの中で明らかな“勝ち組”となったJR東日本とJR東海は、記念切符の発行や親子向け体験イベントなどを行いましたが、それに対して、未だ福知山線脱線事の影響を引きずるJR西日本や、“三島会社”と一括りにされてしまう事が多いJR北海道、JR九州、JR四国は、「あくまで社内の節目」として対外的な事業は行わず、特に祝賀ムードはありません。各社が抱える課題や経営基盤の違いが、鮮明に表れた対応ともいえます…。
この30年を振り返ってみると、JR東日本、JR東海、JR西日本の本州3社は、当初は国鉄から引き継いだ巨額の債務解消が重要な経営課題となっていましたが、優良な営業基盤で稼ぎまくってそれらの借金を速やかに返済し終え、その上で、鉄道事業を強化すると共に、赤字ローカル線の廃止や不動産開発など経営の多角化にも乗り出し、劇的に財務体質を改善させて、3社とも平成18年までには完全民営化を果たしました。
一方、赤字路線ばかりの不利な営業基盤を押し付けられ、採算路線のなかったJR北海道やJR四国は、今も国から付与された経営安定基金の運用益に頼る不安定な経営が続いています。特にJR北海道は、
2月9日の記事の記事で詳述したように、企業としてはもはやボロボロの状態にあります…。
JR四国は、半分の路線がもう維持出来ませんと事実上のギブアップ宣言をしたJR北海道に比べると、まだそこまで深刻ではないものの、それでも、10〜20年先には同じように四国内の路線の維持が困難になるため、「JR北海道の問題は全く人ごとではない、明日は我が身」というような状況です。
JR九州も、
念願の株式上場は果たしたものの、本業である運輸事業の収益化は持ち越されたままで、三島会社の中では優等生と言えるものの、まだ“勝ち組”とまでは言えない状況です。
そして、この30年を振り返ると、JR各社が経営改善を目指すのとは裏腹に、安全性が置き去りにされる弊害も生じました。
JR西日本は平成17年4月、福知山線で、筆舌に尽くしがたい凄惨な脱線事故を起し、乗客など107人が亡くなりました。
JR北海道は、平成23年に石勝線トンネル脱線火災事故を起し、幸いにも死者こそ出なかったものの(死者が出なかったのは奇跡と言うべき程の大事故でした)、その事故を機に、軌道検査データを改竄していた事や、保線などの安全投資を怠っていた事を始め、数々の不正・不祥事・トラブルが発覚し、会社の存続を揺るがす問題にもなりました。
ちなみに、その余波から、JR北海道の社長経験者が2人も自殺するという悲劇も起きました。
国鉄の分割民営化から30年が経ってJR7社の明暗は、このようにはっきりと分かれ、分割民営化の「ひずみ」が、今になって鮮明に浮き彫りになってきています。
末期の国鉄の状況を考えると、分割民営化を断行する以外に全国の鉄道網を維持し続ける方策は無かったので、国鉄を解体して分割民営化させた事自体は、やはり「正解」だったと思います。
実際、末期の国鉄と現在のJRの経営指標(売上高、単年度損益、負債、国家財政への寄与、余剰人員の削減、労働生産性)を比較すると、下図に示されている通り、全ての経営指標で著しい改善が見られるので、こういった経営指標に関する数字だけを見る限りに於いては、国鉄の分割民営化は大成功だったと言えます。
しかし、これらの経営指標をJR7社別の内訳で見ると、実態はかなり違って見えてきます。端的な例としては、JR7社全体の経常利益1.1兆円のうち、実に96%を、本州3社が占めているという事が挙げられます。
JR7社のうち経常利益が最も高いJR東海と、瀕死の状態にあるズタボロのJR北海道を比較すると、JR東海は、何とJR北海道の95倍も稼いでいる計算になります。
そういった実態を踏まえると、国鉄の解体・民営化は、確かに「正解」ではありましたが、それがイコール「成功」だったのかというと、必ずしもそうとは言い切れない、より正確に言うと、明らかに成功した会社もあるが、成功にはまだ程遠い状況の会社もある、というのが現況です。
JRが発足してから30年の間に経済環境や社会環境は激変し、30年前に設計された「JRグループモデル」は制度疲労を起こし、老朽化してきていると言えます。
以下は、週刊ダイヤモンド編集部が、JR7社の各社長に行ったアンケート(Q&A)です。各社への質問はいずれも同じですが、それに対する各社の回答はいずれも同じにはなっておらず、なかなか興味深い内容となっているので、以下に転載させて頂きます。
JR北海道
【Q1】民営化のメリットは?
地域密着経営。国鉄時代は、重要事項の決定には東京の承認が必要だった
【Q2】民営化のデメリットは?
独り善がりになり、安全への問題意識を失った。全体経営であれば指摘されたと思う
【Q3】30年の自社経営の評価は何点?
30点。1桁台でもおかしくないが、社員の頑張りと道民の期待に応える意味で
JR東日本
【Q1】民営化のメリットは?
退路を断ち、徹底的に改革できたこと
【Q2】民営化のデメリットは?
30年間順調にきただけに、気の緩みが一番怖い。安全、サ―ビス、技術開発においてこのままいけばいいという安堵感があるので
【Q3】30年の自社経営の評価は何点?
60点。優良可の良。課題は多いので及第点くらい
JR東海
【Q1】民営化のメリットは?
国鉄時代の債務の棚上げ。政治や労労対立などのしがらみから解放された
【Q2】民営化のデメリットは?
ない。JR東海の観点では国鉄時代の方が良かったことは一つもない
【Q3】30年の自社経営の評価は何点?
目の前にあるリニア中央新幹線という大きな山がある。良かったと言っている場合ではない
JR西日本
【Q1】民営化のメリットは?
地域の実情を踏まえた鉄道のブラッシュアップと事業領域の拡大
【Q2】民営化のデメリットは?
鉄道網の分断によるサービスの非連続性
【Q3】30年の自社経営の評価は何点?
福知山線脱線事故を起こした身としては自己評価する立場にはありません
JR四国
【Q1】民営化のメリットは?
四国と密着した企業運営。東京目線では設備投資や輸送改善が進まなかったのでは
【Q2】民営化のデメリットは?
作られたスキームが経営安定基金の運用益頼みのため、金利水準に左右される
【Q3】30年の自社経営の評価は何点?
絶対に優とか良はもらえないんでしょうけど、落第点ではない
JR九州
【Q1】民営化のメリットは?
社員が自分たちでやらないと飯は食えないという意識や責任感を持つようになった
【Q2】民営化のデメリットは?
当初は環境に不公平感もあり悲哀を感じたが、苦労は当社だけではなかったと思う
【Q3】30年の自社経営の評価は何点?
100点。上場までがんばった社員に100点をあげたい。これからが大変だけど
JR貨物
【Q1】民営化のメリットは?
鵺的な公共企業体から民間企業になり、内部志向からお客さまの方を向くようになった
【Q2】民営化のデメリットは?
線路の使用が旅客と貨物で競合するとキャパシティーに限界がくる
【Q3】30年の自社経営の評価は何点?
外が判断するもの。3年でつぶれると言われたが、会社は黒字になり税金も払っている

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