既にニュースでも報じられている通り、先月25日、ついにJR九州が、長年の悲願ともいえる、東京証券取引所第1部へ上場し、これにより、国鉄の分割民営化・JRの発足から30年近い年月を経て、JR九州はついに完全民営化を果たしました。
JR旅客6社の中では、本州の3社(平成5年に上場したJR東日本、平成8年に上場したJR西日本、平成9年に上場したJR東海)に次いで4社目の上場となり、また、厳しい事業環境にある所謂“3島会社”(JR北海道、JR四国、JR九州)の中では初めての上場となりました。
JR九州は、本業の鉄道事業は依然として厳しい状況にあるものの、経営の多角化により経営基盤が安定(今年3月期の連結売上高は前期比5.8%増の3779億円で、6期連続の増収で過去最高を記録)し上場にこぎ着け、今年4月に発生した
熊本地震では九州新幹線などに被害が生じたものの上場の目標スケジュールは変えず、当初の予定通り先月、鉄道建設・運輸施設整備支援機構が保有するJR九州の全株式1億6000万株が売り出されました。
時価総額は4784億円、出来高は9025万8400株となり、本年としては、7月に上場したLINEに続く大型上場となりました。
兎も角、これでJR九州は漸く、良い意味で“普通”の会社(完全な民間企業)になりました。そして、3島会社のうち残るふたつ、つまりJR北海道とJR四国の2社、そしてJR貨物の計3社は、今後もまだ、あまり良くない意味で“特殊”な会社、即ち、未だ独り立ち出来ない会社(国土交通省所管の鉄道建設・運輸施設整備支援機構、要するに「国」が、全株式を保有しているため、国営とまでは言えないものの完全な民間企業ともいえない、特殊な形態の会社)であり続ける事になります。
国鉄の分割民営化が行われた時点である程度予想出来た事ではありましたが、分割民営化から30年近く経って、JRグループ内の各会社間の格差がより鮮明になってきており、特に、私が住む札幌に本社を置いているJR北海道については、最近ニュースでよく報じられている通り、その経営状態はもはや“待ったナシ”の極めて危機的な状況にあります。
ドル箱路線の東海道新幹線や、需要が大きい大都市圏(首都圏・中京圏・関西圏)を持つ、最初から有利な状況にある本州の3社(これら3社は、鉄道事業の営業利益は当然の如く黒字を維持しています)とは違って、三島会社は、発足当初から赤字になる事が確実視されており、そのため国からの持参金(経営安定基金)頼みの経営でしたが、7%台の高金利で運用益を充てるはずが超低金利となってしまい、その目算も崩れました。
それでも、JR九州は、状況としてはまだ大分マシでした。マンション開発や駅ビル事業などの多角経営で収益源が育ち、九州各地の観光地を周遊する豪華列車「ななつ星」が人気を博すなど鉄道ビジネスも花開き(でも鉄道事業は今も赤字です)、時間はかかったものの上場にこぎつける事が出来たからです。
それに対して、JR北海道は依然として極めて厳しい状況にあり、奇しくもJR九州が株を上場した同じ日(先月25日)に、特に赤字が著しい道内の3線区をJR北海道が廃止する方針を固めたと報道されました。
廃止検討が報道されたのは、札沼線の北海道医療大学〜新十津川間、根室本線の富良野〜新得間、留萌本線の深川〜留萌間で、これら以外についても、輸送量の少ない線区については自治体と、存続について協議する方針との事です。
この報道に対して、廃止対象線区沿線の自治体などは、JR北海道に対して「一方的だ!」と反発を強めており、沿線以外の自治体や関係者、道民などからも、JR北海道に対しては「軽々しく廃線などと言うな、もっと住民目線で考えろ」「もっと徹底的にコストを削減して、赤字を減らす努力、乗客を増やす努力をしろ」などといった意見も寄せられています。
しかし私は、JR北海道という一企業に、一方的に現在の赤字の責任を求めるのは、かなり酷であろうと思います。なぜなら、そもそも北海道には、明らかに鉄道事業には向いていない、全国的にみても特殊といえる条件がいくつも揃っており、それらはJR北海道一社の責任とは言い難いからです。
単に都道府県別の人口を比較すると、北海道よりも人口の少ない県は全国にいくつもありますが、人口密度に注目すると、北海道の密度の薄さは明らかに突出しています。
つまり、北海道は、本州の約3分の1、九州の約2倍、四国の約4倍という広大な面積を有する割には、極端に住んでいる人が少ないという事で、広大な営業区域に人が少ないというのは、言うまでもなく、鉄道事業には大変不利な要素です。
しかも、北海道の人口は事実上、札幌に一極集中しており(札幌市の現在の人口は約196万人で、これは北海道全体の人口の3分の1強に当たります)、それでいて、北海道は本州・九州・四国に比べて都市間がかなり離れており、その都市間を結ぶ線路の沿線にはほとんど人が住んでおりません。
後述するように他にも北海道特有の事情はいろいろとあるのですが、まずはこういった点だけを考慮しても、北海道の鉄道営業がいかに困難であるか、単純に「JR九州が上場出来たのだから、JR北海道だってもっと頑張れば何となるだろう!」などとは言えないという事が、お分かり戴けるのではないでしょうか。
そして北海道には他にも、石炭などのかつての基幹産業がすっかり衰退している(北海道で最初に建設された
幌内鉄道は、旅客輸送よりも石炭輸送のほうが主たる目的でした)、札幌圏以外はどこも急速に過疎化が進んでいる、道南などの一部を除いて北海道全体が厳しい寒冷地でもある(耐寒・対雪を強化した車両でなくては冬期の運用は不可能で、昼夜の別なく線路や駅等の除雪も必要)、などのマイナス要素がいくつもあります。
JR北海道は、効率化の名の下に、社員数を発足当初の13,000人からほぼ半減させ、無人駅化も進め、435駅のうち4分の3以上を無人駅が占めるまでになりましたが、そのように人件費はある程度削れても、経年による設備や車両の更新は避けられないですし、また、そもそも人口が減ってきているのですから(それでいて道内の自動車専用道は次々と延伸・開通していますから)乗客数も減る事はあっても増えはしません。
ですから、JR北海道による一連のコスト削減も、経営を改善するための抜本的な解決策とはならず、JR北海道が今年初めて発表した路線別収支では、道内の全区間が赤字である事も明らかとなりました。
もはや自助努力の限界を超え、鉄道の根幹である安全運行すら揺らいでおり、JR北海道は近々「自力では維持困難な路線」も発表し、地元自治体と協議に入る事になりましたが、自治体側にも、鉄道維持を支援するほどの財政的な余裕は無いのが実情です…。
こういった事を踏まえると、同じく“赤字ローカル線”といわれる路線でも、やはりJR北海道の路線は、本州各社の鉄道とは同様には考えられ要素がかなり強いと思います。
極端な話、例えばJR東日本の管内であれば、東北地方のローカル線が複数の区間で赤字を出していても、それらは首都圏の膨大な黒字で全て帳消しに出来るわけですから。
しかし北海道の場合は、赤字を帳消しに出来るようなドル箱路線は皆無で、
今年3月に開業したばかりの北海道新幹線ですら、当分の間は赤字が続く事が確実視されています。
今後も北海道の鉄道を永続的に存続させるための、最も確実な方法は、JR北海道の路線を再国有化し、地下鉄や路面電車などを除く北海道内の鉄道は国が責任をもって営業を行い、営業損失は税金による補填という形で国民が負担するという形を採る事ですが、多大な犠牲を払ってまで強行した国鉄改革(国鉄の解体と分割民営化)の経緯を考えると、やはりそれは現実的ではなく、そうなると、JR東日本がJR北海道を吸収合併する事で道内の鉄路存続の道を選ぶという選択肢のほうが、まだ現実的な気もします。
もっとも、北海道側にとっては兎も角、少なくともそれはJR東日本にとってはほとんどメリットが無い事なので、JR北海道を吸収合併する事は、JR東日本の側が拒否するでしょうけど。
ちなみに、来月5日には、留萌本線の末端区間に当たる、留萌〜増毛間16.7kmの営業が終了し、同区間が廃線となる事が既に決まっております。
寂しい話ではありますが、現実には地元の人達ですらほとんど利用していない区間であり(同区間の1日1kmあたりの平均輸送量は、平成26年の時点で39人にまで激減しており、平均すると乗客は1列車あたり僅か3人という計算になります)、同区間の利用者数や巨額な赤字を考えると、今まで存続していたのがむしろ不思議なくらいでもあったので、残念ではありますが、私としては、この結果はやむを得ない事だと思っています。
というか、誤解を恐れずに言うと、私は昔からの鉄道ファンではありますが、この区間の廃線には、どちらかというとむしろ賛成です。JR北海道の、現在の切羽詰まった経営状況や今後の展望等を考慮すると、こうした将来性皆無の不採算路線を今後も残し続ける事は、基礎体力が無いJR北海道を更なる苦境に追い込む結果にしかならないからです。
JRが誕生して30年近くが経ったわけですが、現在の北海道の状況を見ると、少なくともここ北海道に於いては、分割民営化は完全な失敗だったといえるでしょう。
このような事態(JR北海道の経営がほぼ破綻に近い状態)に陥ってしまった事には、勿論、JR北海道という会社にも、当事者として責任の一端がある事は確かです。当然、それは否定出来ません。
車両の老朽化などを軽視し、安全対策よりも列車の高速化に集中投資し、その結果、特急列車の発煙や出火事故が相次ぎ、更に、レール幅が基準値以上に広がっていた異常を把握していたにも拘わらず放置していた事により、貨物列車の脱線事故まで発生し、脱線事故を受けて社内調査した結果、レール検査データの改竄(約270ヶ所の異常を放置)も発覚し、それら以外にも、運転士によるATSの破壊、僅か3年の間に社長経験者2人が自殺するなど、近年、会社として事故や不祥事が相次いでいたのは紛れもない事実です。
ですから、もし、JR北海道の発足当時から、会社としてもっと安全対策に集中的に取り組んでいたとしたら、少なくともここまで強く世間からバッシングされる事は、なかったかもしれません。
しかし、JR北海道を過剰にバッシングする余り、「もう、JRは一度潰れたほうがいい。北海道の鉄道事情は、いっそ別の会社に引き継いで貰ったほうが良いのでは」などと言うのは、いくら何でも発想が飛躍し過ぎで、失礼ながら私にとっては、そのような意見はただの妄言にしか聞こえません。
仮に、JR北海道ではない全く別の事業者が道内の鉄道事業を国鉄から引き継いでいたとしても、道内鉄道事業の赤字化が免れ得なかったという結果には、そもそも何ら変わりはなかったでしょうから。
例えば、旭川と稚内を結ぶ宗谷本線は、輸送密度だけに注目すると、いつ廃線になってもおかしくはない程の閑散とした路線で、特に、宗谷本線の北側の区間(名寄以北)については、延長182kmの沿線人口は5万人に過ぎません。東京〜静岡間にほぼ相当する距離にたった5万人しか住んでいないのですから、そのような地域で、国営ではない民営の一鉄道会社が鉄道路線を維持し続ける事はそもそも限りなく不可能に近いですし、地元自治体でもそれを支えきれないのは明らかです。経営安定基金を考慮しても、明らかにJR北海道が維持できる限度を超えています。
そういった現実を無視して、「JR北海道はもっと必至に経営努力しろ、赤字を克服するために更なるコスト削減をせよ」と言うのは、何だか違う気がします…。
本当に北海道(四国もそうですけど)の鉄道は今後どうなってしまうのか、大いに不安です。とりあえず、まずは北海道新幹線の札幌延伸が早期に実現する事に、期待したいです。
もっとも、新幹線が札幌まで延伸すると、それに伴って道内の並行在来線が経営分離されるので、そうなると、その路線は廃止されるか、もしくは、その路線を維持するために、赤字運営となる事が確実な新たな鉄道会社(第三セクター)が発足するという、また別の問題が発生するわけですが…。

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