京阪電車のイメージリーダーであり京阪特急の象徴でもある、テレビカーやダブルデッカー車両が組み込まれた
8000系や、
中之島線の開業に合わせて昨年デビューし今年ローレル賞を受賞した
3000系など、京阪本線系統を走る電車には魅力的で個性的な電車が多いですが、大津線系統を走る電車も、それに勝るとも劣らず、なかなか魅力的です。
京都市と大津市という、二つの府県庁所在都市の中心部を結ぶ、大津線系統の京津線(けいしんせん)には、京都市営地下鉄東西線の列車と共用しているチューブ状の地下トンネル区間(太秦天神川〜御陵間)、古くからある住宅街の中を走り抜ける区間、鬱蒼とした木立に囲まれる急勾配・急カーブをクネクネと進む区間、道路のど真ん中を走る併用軌道区間などがあり、そのため京津線は、一回の乗車で地下鉄・山岳鉄道・路面電車という3つの趣を一度で楽しむ事のできる“波乱万丈”な劇場型路線として知られていますが(笑)、その京津線を走る4両編成の800系電車は、京津線を走る唯一の形式としてキラリと光る存在であり、私が大好きな電車の一つです。
今回は、日本で唯一地下鉄区間と併用軌道(路面電車)区間を直通する車両でもある、その京阪800系を紹介させていただきます。
800系は、京津線車両の地下鉄東西線御陵〜京都市役所前への乗り入れ開始(全部の列車ではありませんが現在は太秦天神川まで乗り入れています)と、京津線架線電圧の1500V昇圧に当たって、地下鉄東西線から併用軌道のある京津線を浜大津まで直通する車両として、平成9年10月にデビューしました。
上の写真2枚がその800系で、この2枚のうち上段の写真は、浜大津駅のホームで撮影した800系(
一昨年10月29日の記事より再掲載)で、下段の写真は併用区間の軌道で撮影した、専用軌道に入る直前の800系(
今年3月18日の記事より再掲載)です。
ホームドアが設置され、ワンマンでATO運転を行い車両限界の小さい地下鉄線(東西線はリニア地下鉄ではありませんが規格としてはミニ地下鉄です)と、急勾配や急カーブがありATS使用で当時ツーマン運転であった京津線を直通するため、800系には数々の工夫と多彩な機能が加えられており、オール電動車2ユニットの4両固定編成(急勾配区間において1ユニットが故障しても走行可能な性能を確保)として8編成32両が製造されましたが、全く異なる路線環境の2路線直通の条件を満たす高度な装備機器類や上質な接客設備などによって、かなり高コストな車両(1両約2億円で、日本の営業用鉄道車両としては群を抜く高額)となっています。
ちなみに、地下鉄東西線と京津線とでは架線の高さが異なりますが、それは、京阪電車としては初のシングルアームパンダグラフで克服されています(各パンダグラフが中央側に向き合う形で設置されています)。
現在の鉄道車両は軽合金製の車体が主流になっていますが、800系は、併用軌道区間で自動車などと衝突した際に車体の修復を容易にするため、あえて普通鋼製車体としており、また、道路を走るため車両の全部スカート部と車体側面下部にはLED形式の車幅灯が設置されています。
上の写真は併用軌道を走る太秦天神川行きの800系を撮ったものですが、この写真では、その車幅灯が点灯しているのが確認できます。
それにしても、一般の鉄道車両よりはやや小振りとはいえ、路面電車としては通常有り得ない4両編成の電車が道路を走る姿は、まるで大蛇が道を這っているかの如くで迫力があり、初めて大津に来てこの光景を見た人は、「なんでこんなもんが道路を走っているんだ!?」と多分驚くと思います(笑)。
上の写真は、大津市内の上栄町駅に停車中の、浜大津行き(左側)と京都市役所前行き(右側)の800系です。
車内は、両先頭車の扉間が集団離反式の2+1セミクロスシート、中間2両がロングシートとなっており(車両定員は先頭車が88人、中間車が105人で、編成定員は386人)、車体外装は、アイボリーホワイトをベースに、琵琶湖をイメージしたパステルブルーが塗装されています。
なお、京津線と地下鉄東西線の直通運転では、京都市交通局の車両は波乱万丈な環境にある京津線(笑)には対応していないことから、京阪(800系のみ)の片乗り入れとなっており、相互直通運転は行われていません。
上の写真は、急勾配区間を通過中の800系の客室内から撮影した運転室です。
御覧のように、先頭車前面には地下鉄対応の外開き非常脱出口を有しており、運転台には、2ハンドル横型デスクタイプマスコンが主幹制御器として採用されています。
また運転台パネルの右側には、列車モニタと、地下鉄線内で使用する画像伝送装置の液晶ディスプレイが設置されています。
なお制御装置は、東西線のAOT運転に対応するため27段式デジタル制御が採用されています。
こうして改めて京阪800系を見てみると、800系は全長16.5mの車体(通常の鉄道車両の全長は20m)による4両編成という、編成としては小粒な電車ながら、やはりキラリと光る個性豊かな電車です。

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