阪神電車は、各編成を構成している車両同士の連結には固定式の棒連結器や密着連結器を使っていますが、編成端部(先頭車の運転台側)だけは、「バンドン型密着連結器」という、連結器中心高さが他の形の連結器よりもやや低い、独特の形の連結器を使ってきました。
上の写真がそのバンドン型連結器で、これは一昨年、阪神三宮駅で停車中の9300系電車を撮ったものです。
このバンドン型連結器は、日本では阪神電車しか使っていないかなり珍しい形で、元々はアメリカのヴァン・ドーン社が製造した連結器なのですが、阪神ではその後国産のものに切り替えました。しかし現在は、阪神電車しか使っていないため需要が少なく、この連結器は国内でももう製造はされていません。
とはいえ、阪神ではこれまでの廃車車両のものをストックしているため、今後数本の電車が新造されても十分な数は一応揃えていたようです。
しかし阪神は、このバンドン型連結器を廃止する事を決定し、一昨年の7月から順次、バンドン型連結器を、近鉄電車と同形式の廻り子式密着連結器に付け替える作業を進めています。
なお、連結器の交換に伴い、先頭車運転台側の連結器中心高さは従来の645mmから840mmに上がり、このため車両によっては連結器が妻面下部に接触することになり、一部の車両においては妻面下部を欠き取る改造も同時に施されています。
阪神が、なぜこの時期になって伝統のバンドン型をやめたのかというと、それはやはり、来年の春から始める近鉄との相互直通運転と関係があります。
現在阪神本線には山陽電車が乗り入れており、また、
阪神なんば線が開業すると、新たに近鉄の電車も阪神本線に乗り入れてくることになりますが、阪神本線を走るそれらの電車(阪神・山陽・近鉄の3社)はいずれも連結器の規格が異なるため何かと面倒が多く、そのため阪神にとっては、既に製造が打ち切られていて将来性の低いバンドン型を今後も使い続けるより、近鉄もしくは山陽のいずれからの形の連結器に統一した方がメリットが大きかったのです。
現在、もし何かの都合で阪神電車もしくは山陽電車が他社線において動けなくなった場合は、専用の連結アダプターを阪神・山陽両電車先頭車の連結器同士の間に装着することで、連結器の異なる阪神・山陽両電車を連結して、牽引したり押したりして車庫まで回送していくことにしているのですが、その阪神・山陽専用の連結アダプターに加え、近鉄電車が乗り入れると今後は阪神・近鉄専用の連結アダプターも用意しなければならず、そうなると、それを車両に搭載するにしろ一定の間隔で地上に設置するにしろ、阪神にとっては更に手間がかかることになり、こういった事情もあって、阪神は、近鉄との相互直通運転開始に先立って、近鉄と同形式の密着連結器を採用することにしたのです。
近鉄電車の密着連結器ではなく、現在阪神と既に相互直通運転を行っている山陽電車の密着自動連結器を採用しても良かったのでは、という気もしますが、これは私の独断ですが、山陽の密着自動連結器はスタイルが貨車の連結器と同じためあまり見栄えが良くなく、また、山陽電車とよりも近鉄電車と直結できた方が利便性が高い、と阪神では判断したのかもしれません。あくまでも推測ですが。
ちなみに、阪神では近鉄線への直通車両を限定し、近鉄直通用の電車は山陽には直通させませんが、近鉄電車は、山陽電車が走っている尼崎〜阪神三宮間も走るため、場合によっては山陽電車と近鉄電車とが連結する事態もありえますが、この場合は、連結アダプターを使うしかないようです。

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