関東ではまだ然程普及していない気もしますが(ただし都営地下鉄大江戸線の環状部はこの方式を採用しています)、関西では、近年建設される鉄道のほとんどは「上下分離方式」により建設されています。
現在建設中の京阪の
中之島線、阪神の
難波延長線、JRの大阪外環状線などはいずれもこの方式で建設されており、また、既に営業しているJR東西線や京都市営地下鉄東西線の三条京阪〜御陵間も、この方式で建設・維持されています。
「上下分離方式」とは、線路等のインフラを、公的機関(国、都道府県、市町村など)と関係鉄道会社が出資して設立した第三セクター会社が建設・保有し、鉄道会社は、そのインフラを所有せずに第三セクター会社から借り受けて列車を運行する方式のことです。
もっと簡単にいうと、鉄道の線路部分は、一般の道路と同じ、という考え方です。
例えば、路線バスは国道・県道・市道などの一般の道路を走りますが、それらの道路はそのバス会社が建設したものではありません。私道でない限り、道路は全て、道路上を走るバスやマイカーなどからの各種税金により、公的機関が建設・維持しているものです。
しかし鉄道の場合は、道路とは違い、A社の列車が走る線路は、そのA社が単独で建設し保有している、というのが今までは一般的でした。
上下分離方式は、道路と同じ考え方を鉄道にも採用し、「下」に当たる線路は、公的機関の出資による第三セクター会社が建設・保有し、鉄道会社は、その会社に線路使用料を支払って「上」に当たる列車を運行する、という形を採ることなのです。
鉄道施設と鉄道車両を保有し、これらを維持・運行する鉄道会社を「第1種鉄道事業者」(大多数の鉄道会社はこれに該当)、鉄道車両だけを保有し運行する鉄道会社を「第2種鉄道事業者」(他社の路線で自社の列車を運行しているJR貨物はこれに該当)、鉄道施設だけを保有・維持する鉄道会社を「第3種鉄道事業者」というのですが、上下分離方式では、第三セクター会社が「第3種鉄道事業者」として新線を建設・保有し、自社の路線においては「第1種鉄道事業者」である鉄道会社が、その第三セクター所有の新線に限っては「第2種鉄道事業者」として列車を運行するのです。
この方式が採用されることによる利用者のメリットは、線路を建設・保有する会社と鉄道会社が、建設リスクと運営リスクを分離してそれぞれの持ち場に専念するため、建設コストが直接運賃に跳ね返らないことです。鉄道会社が単独で建設した路線よりも、運賃が安くなるのです。
しかも、利用者にとってのメリットは運賃が安くなるだけではありません。
この方式で建設された新線が開通すると、既存路線の混雑が緩和し、更に直通運転が実施されることで路線沿線も活性化し、また、新駅の開業によってその付近一帯も活性化に繋がります。
鉄道会社だけで新線を開通させると自社の利益となる周辺開発しかしないため、こうはいかないことが多いのです。
そして、鉄道会社にとっても、この方式を採用するメリットはとても大きいです。
新しい路線を鉄道会社単独で建設しようとすると膨大な費用がかかりますが、この方式を採用すると、公営地下鉄建設並の公的補助により路線が建設されるため、鉄道会社は、第三セクター会社設立のための出資と線路使用料を負担するだけで、新線で列車を運行することができるようになるのです。
しかも、線路を所有していないので、固定資産税などの諸税を払う必要もなくなります。
ちなみに、この場合の公的補助は、国と自治体から出されますが、その大半は、国土交通省の鉄道整備に関わる資金で、主として既存新幹線売却益や整備新幹線リース料などが充てられます。
京阪の中之島線と阪神の難波延長線の場合は、ともに建設費の7割を国と自治体でまかなっています。
つまり、この方式は、鉄道施設を建設・保有する主体と運行する主体とを分離することで、新しい鉄道の建設と運行を容易にする方式ともいえるのです。
今の所、この法式を採用することによるデメリットは少ないので(ただし国や自治体にとっては負担が増えます)、今後は更に普及していくものと思われます。

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