■富田メモの違和感
筆者が偽造説に傾いた理由は、前ページの解析を見てからです。併せて読むことによって、A級戦犯に関係する部分の異常性が際立つわけです。段落をABCDの四つに分けて検証してみます。
段落A
63.4.28 〔3〕
☆Pressの会見
[1]
昨年は
(1) 高松薨去間もないときで心も重かった
(2)メモで返答したのでつく していたと思う
(3) 4:29に吐瀉したが その前でやはり体調が充分でなかった
それで長官に今年はの記者印象があったのであろう
=(2)については記者も申しておりました
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段落B
[2]
戦争の感想を問われ嫌な気持を表現したがそれは後で云いたい
そして戦後国民が努力して平和の確立につとめてくれたことを
云いたかった
"嫌だ"と云ったのは
奥野国土庁長の靖国発言中国への言及にひっかけて云った積りである
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段落C
4.28 〔4〕
前にあったね どうしたのだろう中曽根の靖国参拝もあったか
藤尾(文相)の発言.
=奧野は藤尾と違うと思うがバランス感覚のことと思う
単純な復古ではないとも.
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段落D
私は 或る時に.A級が合祀され その上松岡.白取までもが、
筑波は慎重に対処して くれたと聞いたが
松平の子の今の宮司がどう考えたのか 易々と
松平は平和に強い考があったと思うのに親の心子知
らずと思っている
だから 私あれ以来参拝 していない.それが私の心だ
・ 関連質問 関係者もおり批判になるの意
(欄外注記)
あまり閣僚もしらず。
そうですかが多い。
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細かい表現については色々と疑問点が提示されていますが、ここでは触れないことにします。
■段落A〜Cについて
見て分かるとおり、段落A〜Cについては、語り手が示されていません。
富田氏は(見れば分かるので)注釈を入れる必要がないと判断したわけです。プレス会見ということを考えると、語り手は昭和天皇以外には考えられないでしょう。当時の会見内容とも合致します。
また、発言内容については要点を箇条書きにまとめています。
これもメモをとる場合には極当たり前の書き方でしょう。
話すスピードのほうが文字に書き留めるスピードよりも速いので、発言を全て書きとめるには「速記」などの技術が必要になってくるからです。
筆者が他人の話をメモを取る場合もポイントをいくつか並べる書き方をします。みなさんがメモをとる場合も同様ではないでしょうか。
■異様な段落D
さて問題の段落です。
まず、いきなり「私」という語り手がしつこいくらいに出てきます。
A〜Cの流れを見ると、あきらかに異常です。
また、発言の要点だけではなく、語った内容をそのまま書きとめようとしている書き方です。
つまり、メモのなかで段落Dは明らかに異質なんです。
■分析
A〜Cの流れでいくと、A級戦犯に関する部分も要点を箇条書きにまとめるはずなんですね。
どれくらいの長さ(分量)になるのかもわからない話を、「私は〜」からメモを取るようなことはまずありえません。通常は、ある程度話を聞いてから要点をメモする方法をとります。
技術的に考えても、速記などの技術がない限り発言内容をすべて書き留めるのは不可能でしょう。メモを見ても文字が揃っていて、特別に急いで書いたという雰囲気には見えません。
また、公表を前提としない「メモ」ですから、そもそも発言を詳細に書きとめる必要はないのです。後に見直して富田氏がわかるように要点がまとまっていればよいです。
仮に、こういう発言があったとしても、天皇の政治介入になりますから公表できない性質のものであることは富田氏も理解していたでしょう。そうするとなおさら「私は〜」から詳細にメモをとる必然性がないことになります。
■まとめ
(1)技術的に、その場で発言を詳細に書き留めるのは不可能。
(2)実際にA〜Cまでは要点だけを書いている。
(3)公表を前提としないメモに、公表できない発言内容を詳細に書きとめる必要はない。要点をまとめるだけで十分。
(4)メモを見ても、文字が揃っておりそんなに特別急いで書かれたような筆跡ではない。
(5)ページにきっちり収まっている。
(6)発言者が分かっている場合「私は〜」という書き方はしない。
メモを見ると、
予め書く内容や分量が決まっていたような雰囲気を感じます。清書という可能性もないわけではありませんが、欄外注釈や末尾の関連質問などを見ると清書したものではないでしょう。
これらの点にプラスして、紙質の問題、筆跡の問題、用語のおかしさ、A級戦犯について語られている内容のおかしさ(別の史料と矛盾している)などの問題を考慮すると、偽造説がかなり有力になってくると思います。
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