ピンポーン
夜、突然玄関チャイムが鳴る
同じマンションに住む顔見知りの初老の女性が、困った様な、少し怒った様な顔で立っている。
聞くと
『あたしの家(部屋)が無くなった。
買い物から帰って来たら他人が入り込んでる。家が盗られたんだ。一緒に追い出して欲しい。』
と言う


。
聞いている内に部屋の階数を間違えたのではと思い、話に頷きながら付き添う。
南北2つ有るエレベーターの、普段使わない反対側を利用したらしく、反転した事に気付かなかった間違いだった。
二十年以上住んでるマンションの、隅々まで知る筈の建物内での事。
別の日
『玄関の鍵を落として家に入れない。』
そう言って青ざめ半泣き状態の女性が、
ホールでバックの中身を掻き回し、ひっくり返して中身を広げている。
顔見知り数人で一緒に探したが見つからない

。
@もしかしたら鍵を付けたままかも…
A鍵そのものをかけてないかも…
B出掛けた先で落とした
うっかり者の私に心当たりの行動を重ねて

、鍵を無くしたと言う女性と辿ってみる事にしたら、
A番でビンゴ
部屋の照明全部点き、鍵はテーブルの上、玄関は鍵が掛けた 気配すら無かった。
几帳面で姿勢よく、活動的だった以前
現在は腰が曲がり、全体に身体が縮んで、カートにもたれないと歩けず、ゆっくりたどたどしく会話する様になった彼女。
以前を知る1人としては複雑な心境、
生まれてから、成長と共に手に入れて来た知識と行動力
それが少しずつ離れて行く状態を感じる。
私にもいずれ、現世で借りている器(身体)に取り込んだモノを、返す時が訪れる筈。
身体と中身を一気に返すのが幸せか
(事故や病気)
少しずつ返すのが幸せか(老い)
多発する事故のニュースを見ながら、物思うこの頃。