2008/3/9

読書日記.29  その他

<乱読王の読書日記.29>

レトロスペクティブな日々

0228
午後よりスローライフの終焉会議に出る。このあたりが潮時だろう。退勤後、梅田駅構内のブックファーストで、丸尾末広「パノラマ島奇談」を購入。

0301
少し早めに起きて朝食の後、外出。梅田駅のサウンドファースト前で女友達のN嬢と会い、JRに乗って滋賀県瀬田に向かう。瀬田駅で下車し、文化ゾーン行きのバスで滋賀県立美術館へ。明治・大正・昭和期に活躍した建築家、ウイリアム・メリル・ヴォーリズ展だ。ヴォーリズは心斎橋大丸や神戸女学院を設計した建築家として知られている。俺は彼の真摯で骨太な建築が好きで、同じくヴォーリズ好きのN嬢と共に滋賀まで来たというわけだ。初めて訪れた美術館は池のある公園にあり、物静かで知的な空間だった。展示されたヴォーリズの建築設計図はわかりやすく、非常に懐かしさを感じさせる作品群であり、滋賀まで来た価値は十分にあった。展覧会を観た後、二階の喫茶ドルフィンでサンドイッチを食べ、コーヒーを飲みながら、愛についての話。美術館を出て、バスで再び瀬田駅まで戻り、JRで京都へ。京都駅からバスで河原町に行って、タワーレコードに行く。N嬢はレゲエのCDを買い、俺は岡林信康の名作ライブの旧盤「GOOD EVENING」、伊藤銀次の懐かしい名盤「ペイビーブルー」、大滝詠一「NIAGARA SONGBOOK」、MJQがスイングルシンガーズと競演した「プレイスヴァンドーム」の4枚を買う。ついでに河原町のジュンク堂でラズヴェル細木「酒のほそ道」の第22巻、初見健一「まだある。」、蓮見桂一の短編集「かなしぃ。」を買う。そのまま先斗町へ。先斗町の和食屋ふらいぱんで夕食と酒。N嬢はいつも酒を飲むと頬だけが赤くなる。そこが実に可愛い。終電で大阪に戻り、そのままN嬢のマンションへ。再びウイスキーを飲み、深夜にタクシーで帰宅。帰宅後、「実録呪われた都市伝説 〜隠された都市伝説」のDVDを観ながら、持って帰った仕事。明け方に寝る。

0302
今日は昼に起きて、昨日、京都駅にあった進々堂で買ったトーストを食べる。フランスパンっぽい質感の食パンなのだが、なかなか美味しい。そのトーストとコーヒーを淹れて飲む。朝食後、部屋を片付けつつ、昨日買ったMJQとスイングルシンガーズの競演盤「プレイスヴァンドーム」を聴く。MJQというのはそれ自体が完璧なジャズコンボとして完結しているため、セッションというのがなかなか成り立たない。そのコンボの歴史で競演したのは、テナーサックスの王様ソニー・ロリンズ、奇才マルチリード奏者(クラリネット)ジミー・ジュフリー、俺のフェイバリットのアルトサックス奏者ポール・デスモンド、ニューヨーク室内交響楽団、そしてコーラスグループのスイングルシンガーズの5人(組)しかいない。このアルバムはすでに20年ぐらい前に、当時の知り合いだった書店の主人からアナログ盤を借りて聴いていたけれど、きっちりCDとして復刻していたので買ったのだ。このアルバムはいい。シンガーズの見事なコーラスワークに、ジョン・ルイスのピアノとミルト・ジャクソンのヴァイヴが絡む。昼過ぎに、家の近くで発見したプロヴァンス風のカフェのサルンポワクに母と行く。先週、初めてここに来たのだが良かった。ここで無農薬のオーガニックコーヒーと穀物のクッキーを注文。これも美味。こんな店がすでに2年前から開店していたなんて知らなかった。母と別れて石橋に行く。借りていたDVDを返却し、蕎麦屋の権兵衛へ行く。ここも静かな店だ。ここで天婦羅蕎麦を頼み、少しだけ日本酒を冷やで飲む。蕎麦屋で昼酒なんて素晴らしい。美味。権兵衛の後、いつも行くでコーヒー。ここも時間が止まったような喫茶店。今どきコーヒーが280円でゆで卵まで付いているのだ。耕文堂で少し迷いながらディアゴスティーニのガッチャマンのシリーズの1作目を買ってみる。別にガッチャマンのファンではないけれど、ノスタルジーで買ってみた。箕面に戻り、クリーニング店で出していたスーツ2着を受け取り、帰宅。午後8時にトーストとハワイコナコーヒーで夕食。卵を潰し、塩・胡椒・バター・マヨネーズ・辛子を混ぜたペーストを作り、トーストに乗せて焼く。夕食後、片岡千恵蔵主演の「多羅尾伴内・七つの顔」(1946年)のDVDを観る。天知茂の明智小五郎シリーズと共に、片岡千恵蔵の多羅尾伴内は俺の最も好きな作品なのだ。なかなかいい。5月には小林旭の多羅尾伴内作品がDVD化される。素晴らしいことだ。

0307
週末なので、退勤後、ブックファーストリビングカフェに寄って「和雑貨と暮らしてみる」という写真入の本を買い、それを読みながらコーヒー。最近の俺はどんどん和式な生活に入っており、携帯用の繋ぐ箸、手帳入れる巾着袋、外部メディアを入れるがま口、20代から常用の手拭い、汗取り用の油紙などを常に鞄に入れている状態だ。この本はなかなかいい。リビングカフェの後、三番街のインデアンに行ってカレーで夕食。やはり美味しい。帰宅後、コーヒーを飲みながら「Lの世界」のEF、シーズンセカンドの@、「怪奇アンビリーバボー」の最新版を観る。明け方に寝る。 

0308
昼まで寝て、起床後にトーストを食べてから外出。梅田でホワイトディのチョコレートをマダムセツコで買う。その後、地下鉄で動物園前まで。新世界に行き、珍しく八重勝が空いていたので日本酒。その後、いつもの丸徳へ。少し酩酊しつつ日本橋へ。J&Pテクノランドで、ソニー最新型のデジタルオーディオのウォークマン4GBを買う。林から貰ったIpod−nanoも悪くないのだが、新型ウォークマンの造形に惹かれたのだ。その後、近くのAV中古店で、柴田恭兵主演「べっぴんの町」のDVDを買う。神戸が舞台の映画はすべて好きなのだ。その後、難波に寄り、心斎橋へ。心斎橋のユニクロで、雑誌DIMEとユニクロがコラボした鞄がなかなか良かったので購入。梅田でぶらぶらしてから帰宅。帰宅してパソコンを見ると、ヤフーのオークションで俺が6000円で入札していた矢立が落札されていた。同じものが梅田の書道専門店で確か1万2千円だったのだ。矢立なんぞ買う人は今はいないだろうが。

0309
今日も昼まで寝る。起床後、チキンをローストして黒胡椒したものをトーストにはさんで食べる。朝食後、伊藤銀次の「BABY BLUE」を聴きながら部屋を掃除。東京のGFの玲子が送ってくれた美味な珈琲豆が終了し、喫茶ミンデンで買ったブレンドを淹れる。先週、京都に行った時に六曜社地下店で珈琲豆を買っておくのだった。ミンデンの豆も悪くはないけれど。夕方、いつも愛用している腕時計の鉄製バンドが壊れたので、近くの上辻時計店に行く。修理の間、腕時計を見ていると、なんとシチズンのライトハウスがまだ売られているではないか。ライトハウスの時計が売られていたのは今から20年ぐらい前ではないか。崎谷健次郎「もう一度夜を止めて」がCM曲だった、その後、中山美穂が自身の甘い曲でCMに出ていた。確か俺は20代だったのではないか。棚のライトハウスは普通に動いている。1万9千円。微妙だ。革バンドだし。オメガのスピードマスターを持っている俺がライトハウスか。修理が終わり、高校時代の友人の林にメールしてみる。買うべきでしょうな、という返信がある。時計を買うのではなく、思い出を買うということか。欲しい。確かに欲しい。最近、レトロスペクティブな俺は伊藤銀次のCDや岡林信康のCDを買い、クロスオーバーイレブンのCDさえも買ってしまっているのだ。昨日の「べっぴんの町」のDVDも懐かしい神戸を思い出して買ったのではないか。俺にとって20代のイメージはシチズンのライトハウス、新御堂のカフェバーのピレーネ、そして伊藤銀次の曲だ。ライトハウスは来週にでも買おう、そう考えて石橋に行く。石橋で借りていたDVDを返却し、ブックファーストで杉浦日向子「一日江戸人」という文庫を買って帰宅。夕食後、有名専門学校の事務局長をやっている女友達の直美くんと近日夕食に行くメール。直美くんとも長く逢っていないよな。
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2008/3/6

殺人現場を歩く  読書


歪んだ世界は、ごくありふれた風景。

少し前まで、殺人事件といえば、けっこう重く、滅多にあるものではなかった。ましてやバラバラ殺人などは猟奇事件と呼ばれ、正常な人間の神経では行えないものだった。
「殺人現場を歩く」は、ライターの著者とカメラマンが、殺人の行われた18の現場を歩き、そこの写真を撮り感想を綴る。本書に掲載された写真を見る限り、その現場はごく普通の、そして日常の風景だ。本書に掲載された18の事件のうち、俺は16の事件を知っていたが、その現場は凄惨な現場だと思っていたが、人が一人殺された、あるいは複数人が殺された場所はどこでも見る景色なのだ。本書に掲載された事件のうち、特に印象深いのはやはり「東電OL殺人事件」ではないか。

慶応大学を卒業し、東京電力東京本社企画部経済調査室副長という総合職のキャリアでもあった39歳の女性が渋谷区円山町の安アパートで殺された。ただ殺された訳ではない。娼婦として殺されたのだ。このキャリアウーマンは仕事を退勤した後、娼婦として円山町で客を取っていたのだ。そして客でもあったネパール人男性が逮捕され、有罪は確定したが、未だに裁判は続いている。この事件については佐野眞一「東電OL殺人事件」「東電OL症候群」という2冊に詳しく書かれているのでご一読をお勧めする。(このブログの初期に「東電OL殺人事件」は紹介している)この事件の複雑な所は社会的地位も収入も問題のない被害者が、どうしてそんな安い料金で娼婦をしていたかということだが、それよりも被害者の心の闇がどうしても理解できないのだ。この事件については世間もマスコミも被害者の境遇に好奇な目が集中し、事件当時、被害者の名前はおろか顔写真までが新聞や雑誌に掲載されたものだった。

本書でも、この事件の起こった渋谷区円山町の写真だけは妙に淋しく、因縁めいた雰囲気を感じるのだが、それは俺だけだろうか。
 
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「殺人現場を歩く」
(蜂巣敦・著 山本真人・写真 ちくま文庫)

乱読王の評価 ☆☆☆(最高は5つ星)

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2008/3/3

読書日記.28  その他

<乱読王の読書日記.28>

逝った元部下、喪失と再生

0124
読書と映画のブログ「乱読王」のアクセスが1万を超えた。ありがたいことだ。

0125
退勤後、リビングカフェでコーヒーを飲みつつ、約1時間、今週のミーティングのまとめ。その後、お初天神の蕎麦屋の瓢亭で夕食に天ざる。ここの天婦羅は本当に美味しい。瓢亭の前にあるBARインスパイアに寄ろうかと思ったが、すでに店はなくなっていた。そう言えば昨年、マスターの山本君が近くに移転すると言っていたっけ。インスパイアのあった場所には新しいBARになっており、白髪にバーコートを着たマスターがシェイカーを振っていた。まあいいか、とその店には寄らずに帰ろうとしたら、路地のあるビルの2階に「BARインスパイア」の文字が見えた。おお、ここか。わかりにくい階段を上がると、懐かしい山本君の顔が。
「いつ移ったの?」
「一昨日です」
竹鶴の水割りとピスタチオを食べながら雑談。店は広くなっていて、なかなかいい。思っていたより雰囲気も良くなっていた。30分ぐらい飲んで店を出る。山本君は一階まで見送りに来てくれた。やはり彼はいい男だ。

0126
正井病院での空腹の検診の後、梅田に行き、第一ビルのかえんで上天丼。その後、阪神電車梅田駅前の立ち飲みのコーヒースタンド前に。立ったままコーヒーを飲んでいる男前なJ嬢と会い、一緒に阪神電車で岩屋に行く。下車して、兵庫県立美術館の「ムンク展」へ。ムンクは「叫び」に代表されるような神経を病んだような作品ばかりと思われがちだが、実は明るい作品もある。「ムンク展」の後、再び阪神電車に乗って、元町へ。元町駅近くにある丸玉食堂で昼食にワンタンスープと豚足。神戸に来た時に、ここに来るのは俺とJ嬢の定番だ。昼食の後、J嬢に付き合い、ジーンズショップに行き、センター街へ。センター街の古本屋を回り、俺はちんき堂で雑誌「レコードコレクターズ」の大滝詠一特集を買う。エビアンでコーヒーを飲み、J嬢と、最近気に入っている栗山千明の話など。コーヒーの後、HMVへ。なんと伊藤銀次の名盤「シュガーボーイブルース」が復刻されているではないか。迷わず購入。三宮駅横にある、うどん屋の中村屋で夕食。少しだけ酒。

0202
昼に起床。トースト2枚を朝食に食べてから、午後2時に外出。そのまま阪急で三宮に行き、歩いて元町へ。JR元町駅の横にあるジーンズ屋で取り寄せを頼んでいたジーンズを受け取る。ジーンズの裾直しを待っている間に、丸玉食堂で豚足を食べる。裾直しの終わったジーンズを受け取ってから、海文堂で新刊本を読み、金時食堂で昼食。食後、隣にあるエビアンでコーヒーを飲みながら煙草。HMVに行き、書籍販売コーナーに行くと、探していた本秀康「レコスケくん」があったので購入。三宮駅の一階に最近できたカフェのmielでコーヒーと油で揚げていないドーナツ。このドーナツの美味さは驚き。梅田に戻り、紀伊国屋前で人妻のK女史と会い、32番街の和食屋で夕食。このところの近況など。その後、ナビオのTOHOプレックスで映画「ラスト、コーション」を観る。特別、トニー・レオンが好きではないが、不倫映画「花様年華」が良かっただけに観ておきたかったのだ。こういう不倫映画を一緒に観るにはやはり人妻だろう。映画の後、BARドルフィン。甘くせつない夜。

0205
今日で44になってしまった。定時後に残業をしていると、GFのJ嬢より携帯に電話があり、早々に退勤して夕食に行く。紀伊国屋前で待ち合わせて、グランドビルの夜景の見える和食屋で夕食。J嬢から黒のお洒落なネクタイを頂いた。そのうえご馳走になった。本当にありがとう。嬉しい。夕食の後、BARで酒。俺は竹鶴、J嬢はサイドカー。終電で帰宅。帰宅するとGFのM嬢、K女史、N嬢よりプレゼントが届いていた。こんな俺に、と思うけれど、やはり嬉しい。みんな、ありがとう。

0209
帰りにブックファーストに寄り、雑誌「BEPAL」の最新号、山本ゆりこ「ボンジュール プロヴァンス」、猫の写真集「めめぼん」を買う。俺は猫は好きではないのだが、この写真集の猫のめめぼんは本当に可愛い。その後、リビングカフェで買った本を読みながらコーヒー。リビングカフェの後、三番街の風流田舎そばで牡蠣蕎麦、天婦羅おにぎりで夕食。帰宅後、先日観た「Lの世界」のVOL.2、「呪われた都市伝説」「ジャンゴ」を観る。「Lの世界」はレズビアンをテーマにした画期的なテレビシリーズだが、登場人物が全員脱ぐというのは凄いドラマだ。主人公は懐かしいジェニファー・ビールス。「呪われた都市伝説」のDVDに収録され、何度かネットで囁かれる都市伝説「明日の犠牲者」という話には戦慄する。「ジャンゴ」はあまりにくだらないので途中で観るのをやめた。俺が姉と慕うIさんより、誕生日プレゼントにキリタ工房のボールペンが届いていた。少し短めだが、カランダッシュを彷彿させるフォルムの真鍮製のボールペンは素晴らしい。職人の手作りらしい。Iさん、ありがとう。

0216
帰りにブックファーストで雑誌「サライ」を買い、リビングカフェでコーヒーを読みながら飲む。その後、カレー屋ピヨで夕食を食べて帰宅。帰宅後「ほんとにあった呪いのビデオ27」「Lの世界」BCDを観てから寝る。

0220
午前中に、仕事の途中で携帯を見ると、前に勤務していた会社の同僚の真理ちゃんからメールが届いていた。至急、連絡を下さいとあった。真理ちゃんからそんな緊急の連絡はない筈なのだが。真理ちゃんに電話をかけてみる。

「山本陽子さんが亡くなりました」

俺は耳を疑った。山本は当時の俺の部下だった。京都芸短を卒業して、有名なイラスト会社のSpoonで事務をしており、その後、俺が課長だった健康食品会社に入社してきた。企業の花形部署の企画課なのに応募は4人。当日のドタキャンもあって、俺は気乗りしない部分はあったが、山本を面接採用し、部下にした。山本は画才も素晴らしかったのに、本当に働くのがイヤという感じで、よく俺は近くの喫茶店に呼んで「おまえ、やる気がないんなら、さっさと辞めろ!」と叱ったものだった。その後、俺は転移性のリンパ腫となり、その遠因だったリンパ癌の切除手術と放射線治療のために約半年休職した。その間、仕事嫌いの山本だったが、必要に迫られて仕事をこなし、俺が仕事に復帰した頃にはかなり仕事ができるようになっていた。山本が入社して4年目だった。それからは二人三脚で仕事を片付け、その後に起きた些細な出来事で社長・副社長から目の仇にされるようになった企画課を何とか継続していった。しかしその後、会社上層部との決定的な亀裂があり、俺と山本はほぼ同時期に会社を辞めた。その後、山本は付き合っていた男性と結婚し、俺は整体師を経て、今の会社にコピーライターで入社した。

退職後、山本とは互いに忙しいこともあって疎遠になったが、一度だけ東急ハンズの入り口で偶然に会い、コーヒーを飲みながら懐かしい話をした。「まだ子供ができませんのでねえ」という話を聞き、「あせらなくても、そのうち授かるさ」と俺は答えた。その後、山本とは何度かメールしたり、このブログにも何度か書き込んでもらったりした。そのうち、昨年夏頃だったか、妊娠しましたというメールが届き、年明けには子供を見せてくれよと返信したのを覚えている。

会社で会議を終えて、天神橋筋6丁目のお通夜の会場に向かった。俺にはまだ山本の死は実感できていなかった。午後8時に到着して、会場の前に到着すると、生前、山本が何度か写真を見せてくれたご主人がいた。ご主人は「チャーリーさんが来られるのを待っていました」と言われ、会場の中に入れてくれた。祭壇には満面に笑みを湛えた山本の遺影が飾られている。ご主人に「顔を見てやって下さい」と言われ、お棺を覗くと、やすらかな、そして笑顔の山本が眠っていた。俺はその時、泣いた。俺は30年ぶりに泣いた。デザイン学校時代の友人が心臓麻痺で死んだ時も、昔の同僚が自殺した時も、親父が死んだ時も俺は涙が出なかった。しかし山本の顔を見た時、俺は涙が止まらなかった。ご主人に聞けば、昨年、母体の検査をした時に胃癌が発見され、すでに体中に転移していたという。そして男の子を生んでしばらくして山本は逝った。俺はもう涙が止まらなかった。お前何やってんだよ、待望の子供じゃないか。誰が子供を育てるんだよ、それにお前は一人っ子だし、病弱な母親がいて看病してるんじゃないか。俺が癌から復帰して、何でお前が癌で死ぬんだよ。お前はまだ34だろう。馬鹿野郎、俺より先に死んでどうする。俺は悲しくて、そして何より腹が立った。なんできちんと検査しなかったんだよ、バカ。

気がつくと山本のお母さんが立っていた。一度、お母さんの体調が悪化して、意識不明の時に、俺は見舞いに行ったことがある。一人っ子のためか、母親の様子を心配そうに見ていて、「このままお母さんの意識が戻らなかったら、あたしはそれを冷静に受け入れることができないかもしれません」と病院の窓から、夕方の空を見ながらつぶやいたことを今でも忘れない。温厚そうなご主人は「よく陽子は上司だったチャーリーさんの話をしてくれました。あなたのブログもよく覗かせてもらっていました」と言われ、「ただ、残念です」と声をつまらせた。俺は耐え切れなくなって、お母さんとご主人に挨拶して会場を出た。

すぐに地下鉄に乗る気にはなれなかった。俺は天神橋筋を歩きながら何度も泣いた。何でお前が死ぬんだよ。お前が死んでどうするんだ。子供を俺に見せるって約束したじゃないか。お前がいたから、あの会社で俺は頑張れたんだぜ。お前がいなかったら、俺はあの会社では何も出来なかった。

俺は今まで長生きしたいとは思わなかった。太く短くでいいと思っていた。でもな、山本。俺はお前の分まで長く生きてやる。1分1秒でも。お前はバカなところもあったけれど、俺には本当に可愛い部下だった。安らかに眠ってくれ。

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