2018年3月3日、
国際宇宙探査フォーラム(ISEF2)が開催された。
昨今の国際問題における複雑な利害関係の中で、こういった枠組み会議は近年は成果が芳しくないことも多い中、我が国が、合意形成のためのイニシアティブを確保しつつ、テーマの性質上やや具体性に欠けるとはいえ「
東京原則」をまとめあげたことで、一定の成果があったと評価できるだろう。
実は、2015年11月にISEF2開催の調査の競争入札の提案書を出しており、落札はできなかったが、別途担当させていただいた宇宙政策調査での深宇宙探査への提案との整合性もあり、
Google Lunar X-Prize(GLXP)終了時期に重なるマイルストーンとしても注目はしていて、色々とよい方向性になるように、微力ながら影で調整もさせていただいた。
期せずして、直前に遠回しに霞ヶ関・永田町界隈の関係者に少し刺激を与えるようなアクションができたことも、我ながら意義深かった気がする。
ISEF2は元々は2017年内に開催予定だったが、開催時期を延期した分、
サイドイベントの充実も図れたことも大きな成果だ。
若手向けイベントの
Y-ISEFは
Space Generation Advisory Council(SGAC)の手法を取り入れて開催することができ、産業向けイベントの
I-ISEFでは、複雑化する国際関係の中での宇宙ビジネスの熱気とシビアな現状を日本の宇宙新規参入者が肌で感じる場としても、
ispaceを含む国内外ベンチャーの登壇や展示の流れを巻き込み、伝えることができたのではないだろうか。
直前に滑り込ませる形で、
NPO法人日本火星協会の展示ブースも出展でき、ISEF2閣僚級会議中も、説明員としてもお手伝いさせていただくことができた。
SGACの若手日本メンバーが、ISEF2開催に合わせて開催した SGAC informal meet upイベントにも参加させていただいた。
Y-ISEFの参加者達が後日企画している若手のアフターイベントにも、お招きいただいている。
国連宇宙空間平和利用委員会(UN COPUOS)出席時にも感じたが、当日の実際の議論自体にそれほど意味があるわけではなく、合意形成と盛り上がった雰囲気作り自体が、次回開催までの業界の空気感を作るという役割の方が強い。
「決め方の科学」的なバックキャスティング手法の導入で、議論のテーマを論理的に整理し、決定事項を未来から見て有意義だったと思えるような形に、国境を超えて当事者間の意識合わせしていく必要があるだろう。
次回第3回の開催はイタリアで開催することも含め、なるべく国際意思決定機関は統一していく必要があるとはいえ、「戦後レジームからの脱却」を目指す我が国が、国連の枠組みとは一味違う未来志向のプレゼンスを発揮できる枠組みとしても宇宙平和利用の国際的な議論が役立つことの証明にもなった。
具体的な国際宇宙探査が実際に進む2030年頃には、国家の役割も変貌し、経済の仕組み自体も恐らく変わっているだろう。
ISEF2のような長期ビジョンの合意形成に取り組める機会を契機に、宇宙を志す国内外の若手・中堅が、個のつながりを強化し多視点的な理解を深め、旧来の国家の枠組みや人種・文化を超えて、地球規模課題の解決と国際秩序の回復に向けて、困難を乗り越えていってほしい。
ISEF2も終了し時効だと思うので、ISEF自体の当初の目的が今回どの程度達せられたかを振り返るためにも、最後に、競争入札時の提案書の一部を参考URLと共に掲載しておく。
ISEF2関連参考URL
第2回国際宇宙探査フォーラム(ISEF2)レセプションの開催
ISEF2 side event Y-ISEF Highlights(動画)
そらこと 宇宙探査ビジネス・カンファレンス I-ISEF
(前編)(中編)(後編)
第
2回国際宇宙探査フォーラム(ISEF2) サイドイベント「I-ISEF」にプラチナスポンサーとして協賛 〜資生堂 細井純一研究員が登壇〜
国際宇宙探査フォーラム 参加者がJAXA訪問 水再生技術に関心 /茨城
ロスコスモス社長と日本の宇宙政策担当相が会談 国際宇宙探査フォーラムで
トランプの宇宙政策大統領令と国際宇宙探査フォーラム
宇宙探査「月、火星が目標」 国際会合で共同声明
国際宇宙会合 太陽系探査拡大で協力
JAXA's No.078
調査提案書(一部抜粋)
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1.2 調査の目的
本調査の目的を以下に記載する。
2014 年 1 月 9 日に米国ワシントン DC において開催された第1回国際宇宙探査フォーラム(International Space Exploration Forum, ISEF)において、下村文部科学大臣より、次回 ISEF(ISEF-2)を日本で開催することが述べられた。これを受け、文部科学省が主導し、国際調整を経た上で、国際宇宙探査の枠組みを構築する。本委託業務は、この枠組み構築の一助として、各国や民間等の国際宇宙探査の動向を調査分析し、国際宇宙探査の枠組みに必要な要件を抽出することを目的とする。
1.3 提案の背景と概要
欧州では、2009年から毎年1回、EU/EC、ESA、開催国政府が、国際宇宙探査における戦略的な指針設定と国際協力を推進するために、閣僚級を含む政策レベルで拘束力のない対話・意見交換を行う会合を開催していた。中国の存在感が高まる中、米国は当初は消極的であったが、欧州主導の国際会合をよりグローバルに変えるべく、米国が主導権とプレゼンスを発揮しようと、第4回の会合を第1回ISEFとして米国で開催することとなった。
米国では、スペースシャトルの引退やNASAやDoD等政府機関主導の研究開発における厳しい財政状況の中、一定の成果を収めつつあるCOTS、CCDev,CCiCap,CRSの一連の輸送系の商業サービスを支援する仕組みづくりにならい、月面探査をはじめとする宇宙資源探査においても、競争的資金のフェーズごとの投入で民間の投資を喚起し産業化を支援すべく、仕組みづくりや法整備にあたっている。また、新興国の台頭により、技術移転、産業化、コストダウン、標準化等の流れは、衛星・ロケット等の既存の宇宙産業分野だけでなく、従来は伝統的に学術的な側面の強かった宇宙探査分野における国際協調の中でも反映されつつある。
こうした中で、我が国の従来の技術的な強みを生かしつつも、産業化を意識した技術的重点分野を明確にし、将来を見据えて戦略的に国際競争力を強化し、政治的背景も踏まえて我が国が宇宙探査分野でのプレゼンスを高める必要に迫られている。昨今の各国の複雑な利害関係のひしめく政治状況の中で、人類共通の知見と技術を結集した課題解決型のミッションとして、平和的に国際協調による宇宙探査の長期ビジョンをまとめていくプロセスに発言力を持ち、積極的に取り組んでいくことが重要となる。本技術等提案書は、2017年に控えた第2回ISEFの日本開催に向けて、その施策の指針となりうる基礎資料の調査ついて提案する。
2. 調査内容
○○は、「仕様書」の3.1.で規定される下記内容に関して調査を行う。
2.1 国際宇宙探査の主要ステークホルダーに関する調査・分析
2.1.1 主要ステークホルダーの選定
以下に、国際宇宙探査に関して調査対象となりうる、潜在的な10 以上のステークホルダーをリストアップする。
(仕様書の指定国):米国、欧州(EU、ESA)、ロシア、日本、中国、インド
【追加提案】
主要な商業活動、宇宙探査に興味を持つ新興国として、追加調査対象国候補を以下に提案する。
(ISEF参加国):ウクライナ、カナダ、韓国、ルーマニア(ESAのECS)、サウジアラビア、ナイジェリア、メキシコ
(ISECG新規加入国):UAE
(GLXP参加チームの所属国):イスラエル、マレーシア、チリ、ブラジル
※ ISECG: International Space Exploration Coordination Group
上記案を元に、受託決定後ただちに、主要なステークホルダーの選定基準を文部科学省殿に提案し、主要なステークホルダーを洗い出す。その結果については、以降の作業を行う前に文部科学省殿と初回の打合せにて協議の上、宇宙開発利用部会 国際宇宙ステーション・国際宇宙探査小委員会、その他の関連資料提供をいただき、調査対象ステークホルダーの整合性を図り、10〜13カ国程度に絞る。
2.1.2 主要ステークホルダーが宇宙探査を行う目的・背景の調査・分析
主要ステークホルダーごとに、宇宙探査を行う目的・背景を調査・分析する。目的については、各国の宇宙機関のミッションステートメントを重視し、背景となる各国の宇宙予算やその中に占める宇宙探査予算の割合については、主要国に関しては○○の過去のデータを参考にしつつ、最新のデータについても可能である国は情報収集する。各種制約、政治的背景、地政学的背景に関しては、宇宙分野の専門家だけでなく、人的ネットワークで、必要に応じて国際政治学等の専門家に宇宙分野だけにこだわらない客観的な意見をヒアリングすることも可能である。
2.1.3 主要ステークホルダーの宇宙探査活動、技術注力動向の調査
主要ステークホルダーごとに、現在行っている活動、過去に行った実績をふまえ、宇宙探査に関する計画及び宇宙探査に関する技術注力動向を調査する。 ○○は(一社)日本航空宇宙工業会から受託している世界の宇宙インフラデータブック(衛星編、ロケット編、惑星探査・宇宙船編)の調査を行った実績があり、宇宙探査動向に関しても、これらの情報が活用できると考えている。また、過去の宇宙探査機の打上実績や、今後の計画を一覧にまとめた海外サイトもあり、併せて活用することで整合性をとる。また、の広範囲のコンタクトポイントにより、国内外の人的ネットワークから多くの情報が取集できると考えている。
各国の技術注力動向に関しては、国内外の月着陸船、探査車等の宇宙探査機に関する開発設計の一部に関わった経験を持つ者もおり、海外に関しても大まかな予測をつけて情報収集に当たることができる。さらに、調査協力予定有識者は宇宙探査の専門家もおり、その知見を活かし、海外の技術注力動向の情報も研究者のつながりや学会・シンポジウム等の発表資料、インターネット上の情報などから情報収集し、SWOT分析など判り易い手法を用いて適切に分析が実施できると考えている。
以下に、技術注力動向の項目例を示す。
有人技術
有人宇宙船と運用管制技術、有人宇宙滞在技術、有人宇宙活動支援技術、宇宙環境利用技術、有人宇宙探査技術
月面無人探査機
自立軟着陸技術、月面移動技術、観測機器技術、熱制御技術、エネルギー供給技術、月面土木・建築技術、建築・保守用ロボット技術、ペネトレータ技術、サンプルリターン技術
国際宇宙探査キー技術
- 輸送:探査用宇宙船、大型打ち上げ能力、極低温燃料貯蔵、地球再突入ヒートシールド、高効率大型推進エンジン
- 深宇宙運用:深宇宙航法ランデブ、大型電気推進、光通信、燃料補給、深宇宙自律運用
- 離着陸:高精度着陸・障害物回避、表面からの離陸・回収、メタンエンジン、突入/降下
- ロボット:表面移動・掘削、遠隔操作・有人支援
- 電力:再生型燃料電池、軽量太陽電池パネル、原子力発電
- 有人滞在:放射線対策、水・空気再生、宇宙医学/健康管理、居住モジュール軽量化、宇宙服、現地資源利用
2.1.4 主要ステークホルダーの国際宇宙探査の枠組みに対する要求の調査・分析
2.1.2、2.1.3の調査結果やハイレベルの発言、プレスリリース等から、主要ステークホルダーごとに、国際宇宙探査の枠組みに対する要求事項を調査・分析する。 国連宇宙空間平和利用委員会(UN COPUOS)や、EU、各国政府の宇宙探査政策に関してまとめ、必要に応じて人的ネットワークにより、担当者とメール等でコンタクトを取りつつ、枠組みに要求する事項の背景を多角的に分析する。
2.1.5 主要ステークホルダーの分類・グループ化
主要ステークホルダーごとに、2.1.2〜2.1.4の調査・分析結果やその他情報等から、 主要ステークホルダーを分類・グループ化する。
分類例:
宇宙探査の目的
科学技術的、産業的、エネルギー的背景のみならず、各国の政治・文化・宗教的な背景も考慮する。
宇宙探査で目指す場所
ISS、月無人、月有人、火星無人、火星有人、小惑星、外惑星とその衛星、その他
技術注力分野
ロケット、着陸機、ローバー技術、有人技術:2.1.4の分類に基づき調査する。
【追加提案】
一般市民の探査への参加
政府系機関のみならず、民間企業、市民団体等が宇宙探査に関わっているかどうかを調査する。
経済拡大への刺激
ISSでの手術支援ロボットなど医学的成果と同様に、ローバー技術の地上での災害等への応用、有人閉鎖環境システムの地上での災害や極地や地球環境破壊地域での応用等、医学をはじめとする他産業への技術応用価値を調査する。
調査方法としては、同じ分類に属す主要ステークホルダーを1つのグループとして扱う。
項目ごとに評価表を作成し、統計処理を行い、これらのクロス集計の数値化された評価を表・グラフ等でビジュアル化し、見やすい表記を心がける。
分類に関しては、要素技術の構造がわかる図を作成し、相互の関係性をわかるようにする。
2.2 今後の国際協力による宇宙探査に影響を与える主要因とその動向の調査・分析
今後の国際協力による宇宙探査に影響を与えると考えられる主要因をリストアップする。 また、それら主要因の動向について調査を行い、その傾向や今後の動向について分析を行う。この主要因には、米国の最新の宇宙政策による影響、民間の宇宙探査活動への投資動向を含める。これらの調査は、主に政府公式のインターネットサイトで公開されている情報や、シンクタンク等による分析結果、国際会議での発表等の既存の情報源による。
米国の最新の宇宙政策における民間の仕組みについては、2015年7月に発表された、Economic Assessment and Systems Analysis of an Evolvable Lunar Architecture that Leverages Commercial Space Capabilities and Public-Private-Partnerships や、Space of Act 2015等にみられるような民間への宇宙探査の委託を進めることで、国際法上の矛盾にも直面する可能性があり、慎重な議論も必要とされる。国連宇宙空間平和利用委員会(UN COPUOS)などの国連の枠組みと、ISEF参加国との違いを考慮する。民間の宇宙探査活動への投資動向については、Google Lunar X-PRIZE関連や資源探査のフォーラムでの情報が入手可能である。
2.5 参考文献
現時点での予定参考文献の一例を挙げる。
GAO NASA Assessments of Selected Large-Scale Projects
http://www.gao.gov/products/GAO-15-320SP
Economic Assessment and Systems Analysis of an Evolvable Lunar Architecture that Leverages Commercial Space Capabilities and Public-Private-Partnerships
http://science.ksc.nasa.gov/shuttle/nexgen/Nexgen_Downloads/NexGen_ELA_Report_FINAL.pdf
Space Launch Systems
https://www.nasa.gov/exploration/systems/sls/index.html
nasa_Journey-to-Mars-next-Steps
https://www.nasa.gov/sites/default/files/atoms/files/journey-to-mars-next-steps-20151008_508.pdf
nasa_GER-2013_Small
http://www.nasa.gov/sites/default/files/files/GER-2013_Small.pdf
NASA Roadmap
http://www.nasa.gov/offices/oct/home/roadmaps/index.html
JOURNEY TO MARS
https://www.nasa.gov/sites/default/files/atoms/files/journey-to-mars-next-steps-20151008_508.pdf
ISECG
http://www.globalspaceexploration.org/wordpress/
US HUMAN SPACEFLIGHT, 2009
http://www.nasa.gov/pdf/617036main_396093main_HSF_Cmte_FinalReport.pdf
US President’s Commission on Implementation of United States Space Exploration Policy, 2004
https://www.nasa.gov/pdf/60736main_M2M_report_small.pdf
Space Act of 2015
https://www.congress.gov/bill/114th-congress/house-bill/2262/text
mext_JAXA_ISAS_宇宙科学・探査ロードマップの検討状況
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/071/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2015/04/22/1356906_5.pdf
mext_JAXA_国際宇宙探査協働グループ(ISECG)での調整状況
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/071/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2015/02/02/1354243_1.pdf
mext_付録2_国際宇宙探査の現状
http://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2014/09/29/1352168_3.pdf
jspace-law.keio_jaxa川崎一義_宇宙探査国際ロードマップ及び現在の各国宇宙探査計画
http://space-law.keio.ac.jp/川崎様.pdf
jspec.jaxa_佐藤直樹_GER_国際宇宙探査ロードマップ
http://www.jspec.jaxa.jp/2014symposium/pdf/1-2%20JAXA_GER.pdf
jspec.jaxa_国際宇宙探査シンポジウム2014_プログラム
http://www.jspec.jaxa.jp/2014symposium/
mext_JAXA_我が国の国際宇宙探査への参加シナリオ
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/071/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2014/06/04/1347862_4.pdf
cao_JAXA_国際宇宙探査ロードマップ
http://www8.cao.go.jp/space/comittee/kagaku-dai9/sankou3-1.pdf
国際宇宙ステーション・国際宇宙探査小委員会 中間とりまとめ
http://www.jspec.jaxa.jp/2014symposium/pdf/2%20MEXT_Tani.pdf
G-TeC報告書
http://www.jst.go.jp/crds/pdf/2013/CR/CRDS-FY2013-CR-02.pdf
ISECG日本語版
http://www.jspec.jaxa.jp/enterprise/data/GER_V2-J.pdf
有人宇宙活動に向けた生命維持システム技術開発に関する調査研究 (宮嶋宏行)

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