第10回STSJツアーinLA 感想文
山下 浩史
【ツアー名称】 第10回 ロサンゼルスツアー
【主催】 NPO法人 The Space Tourism Society Japan
【参加の背景】
理事長の五月女氏とは、3年ほど前に知り合い、東京テクノロジーコミュニケーション専門学校(TECH.C)では、五月女氏が教育顧問をされていて、昨年の立ち上げの一年間に私が講師を務めることになった。東京で開催されたSTSJのセミナーには、以前にも何度か参加させていただいていたが、今回、兼ねてからお誘いいただいていたロサンゼルスツアーに、念願の初参加をするに至った。
【目的】
米国宇宙ベンチャーの最新動向を知るとともに、訪問者、参加者とのコミュニケーションを深め、今後の宇宙ビジネスに生かす。
☆8月24日(月)
【訪問先名称】:UCLA Multifunctional Composites Laboratory
http://www.seas.ucla.edu/mcl/
【対応者】:高橋航圭氏、ジョンウォンリュウ氏、Hak-san Kim氏
【訪問内容】
はじめに、別棟のUCLA病院のエントランスに入ったが、マイケルジャクソンの亡くなったUCLA病院に行けたことは、彼のファンである私に取っては嬉しかった。
その後、五月女氏の所属する研究室を訪問、はじめに、上記3氏からの研究発表があった。研究内容は、どれも興味深く、高橋氏の複合材料の修復機能については、地道だが将来的には高い産業応用価値が期待できそうに感じた。その後、研究室を見学した。予算、研究内容の連携、設備など、日米で規模は異なれど、大学の研究が抱える問題点は同じ点も多いように感じた。
【訪問先名称】:California Space Center
http://www.californiaspaceauthority.org/spacecenter/index.html
【訪問内容】
施設内には、数多くの衛星や探査機、カプセル等のスケールモデルなどが展示されていた。施設の見学で一番盛り上がったのは、筒の中に入ったロケットの模型をハンドルの回転による持ち上げるおもちゃであった。私を含め、参加者が皆、緒川さんに完敗であったのは悔しかった。
【訪問先名称】:Lunar Rocket and Rover社 (LRRC)
http://www.lunar-rocket.com/flash.html
【対応者】:Robert Kleinberger氏
【訪問内容】
TECH.Cで打ち上げる小型サウンディングロケットのサービスを提供するRobert氏とは、昨年4月のキックオフ以来の再会となった。モバイルの発射台は、予想していた通り、小型で比較的シンプルでアナログな作りであった。軍としての実績はあるが、LRRC自体としての打ち上げ回数実績の少なさから、サービスとしてはノウハウが明確には確立されておらず、現状ではまだ一般向けに量産型で商業展開するには厳しいようには感じたが、米軍事技術からの派生でサウンディングロケットをベースに事業を展開できるアメリカ特有のおおらかさを感じた。
その後の夕食時に、高校生の参加者(中宮くん、鈴木くん)が数学の問題を必死に解こうとしていたのがとても印象的だった。
☆8月25日(火)
【訪問先名称】:Mojave Air & Space Port
http://www.mojaveairport.com/
【対応者】:Tom Wiel氏 他
【訪問内容】
モハベ空港の概要と、SpaceShipOne(SS1)のANSARI X-PRIZE獲得等に関する動画を見せていただき、その後質疑応答となった。SS1成功が後続の商業民間宇宙産業に与えた影響が多大であることを実感した。
【訪問先名称】:Interorbital Systems
http://www.interorbital.com/
【対応者】:Randa Milliron氏 (CEO) Roderick W. Milliron氏(President)
Jeffrey Augustine氏(Technomysticism.com)
http://www.technomysticism.com/
【訪問内容】
以前、私が勤めていた宇宙ベンチャー企業で小型サウンディングロケット打ち上げサービスの企画をしたとき、調査業務でも少しだけ掲載をした会社であるが、実情はあまり把握しておらず、実際に訪れるのは初めてであり、注目していた。クラスターで超小型の衛星キッドを格安で打ち上げるユニークなサービス形式を取っているが、調査時のイメージと比べ、思ったほどは進んでいないようには見えたが、地道に開発を進めていることが伺えた。TubeSatと呼ばれるその個人向け超小型衛星キッドは、一応、750gで8,000$と、一般的に100万円/kgが目安と言われている、ロケット打上時の衛星の重量あたりのコストとほぼ合っていて、最低限のバス機能がついているというのは破格であるという印象を受けた。当然、衛星自体の機能は利用サービスとしての商業的価値は難しいが、個人向けにするなら、この程度極端にお手軽な方がマーケティングとしても正解であると、以前1億円で個人向けの20kg級バスの小型衛星を販売していたことと比較して思った。また、当時富裕層の個人向けユーザに対するサービスで要求された、衛星は手元にないのでユーザに所有感がないという問題点を、アマチュア無線中継やメッセージ機能等、備わっているアプリケーションとしてどう解決するかも興味深い。トンガとパートナーシップを結び、トンガの射場から打ち上げるとのことだったが、コストの面では謎が多かった。
参考:「宇宙分野における産業化に係る調査」(平成19年度NEDO)より抜粋
Interorbital Systems 社はロケット及び宇宙船の製造メーカー。
Sea Star SAAHTO/KE ロケットは45 ポンド (20.4-Kg)のペイロードを高度150マイル(242km)の極軌道に乗せる実力を有し、同社は2008年には小型衛星または複数の超小型衛星を極軌道に投入する計画を進めている。
項目 内容備考
代表者 Roderick W. Milliron
場所 米カリフォルニア
売上高 不明
主たる事業 ロケット及び宇宙船の製造
SAAHTO/KE
出典:
http://www.interorbital.com
【訪問先名称】:XCOR
http://www.xcor.com/
【対応者】:Doug Jones氏、Mike Laughlin氏 他
【訪問内容】
町工場のような実際の開発現場で、こちらも事前のイメージよりはこじんまりしていたが、工具類や部材を見る限り、ある程度の自前の開発生産技術を持っているように見受けられた。エンジニアとしては、大きすぎず、ある程度の設備が整っていて自己判断で試行錯誤しながら開発できるような環境は最高だと感じた。事実、働いていたチーフメカニックの方も根っから航空宇宙技術が好きそうで地味ながらも生き生きしていた。
【訪問先名称】:National Test Pilot School
http://www.ntps.com/
【対応者】:Ed Solsky氏
【訪問内容】
EU諸国、カナダ、メキシコ、韓国など、海外とも協力して訓練しているのに、日本は参画していないようで、日の丸の国旗がないのが残念だった。様々な小型機が大量に格納庫に保管されていて、訓練、整備状況やスケジュール、作業服、部品や、単発エンジン等がむき出しで並んでいるのが、生々しかった。
また、Scaled Composites社は見学できなかったが、帰り際の広場で、2007年7月27日に、同社の開発中の事故で亡くなった方の慰霊碑があり、Eric Blackwell, Todd Ivens, Glen Mayの犠牲者3名の写真と、John Magee Jr.の有名な詩が刻んであった。
☆8月26日(水)
【交流会】
夕方から、小田さんのご自宅でLA在住の日本人の方とのホームパーティ形式の交流会があった。参加者の中には、進路に悩む高校生や、アメリカで成功されている方も多く、大変興味深く人生、生き方も含めて色々お話を聞かせていただいた。高木氏や緒川氏のプレゼンにも参加者の皆さんがとても興味深く聞いていて、航空宇宙分野以外のフィールドで活躍される方からの、はっと思わせるようなもっともな指摘、質問もあり、大変興味深かった。世代やバックグラウンドの違うLA在住の日本人の方とコミュニケーションが出来たことで、自分の視野もとても広がった気がした。
☆8月27日(木)
【訪問先名称】:Jet Propulsion Laboratory (JPL)
http://www.jpl.nasa.gov/
【対応者】:Nicholas T. Toole氏、高木敦也氏、他
【訪問内容】
この日のツアーに参加した末包氏とは、前職時代のあるプロジェクトで少しだけお仕事をご一緒させていただいたことがあり、偶然の再会となったが、宇宙業界の人間関係は狭いものの、一般製造業コンサルという少し違ったルートでのご縁だったので、非常に驚いたとともに、自分が宇宙分野の事業性や生産性が経営的視点からどう写るかを客観的に考えて行くきっかけとなったことを思い出させた。入り口のセキュリティはあったものの、JPLが元々Caltechという大学から派生した研究機関なためか、とても開かれた印象で、見学は、オペレーションルームや展示室、探査機の製造現場など、一般の人に見せるための視点に立った公開が進んでいて、すれ違う職員の服装や様子などからも自由な研究開発の雰囲気も伝わってきた。宇宙科学の分野では国際協力も多く、外国人も多いように見受けられた。画像ソフトウェアの分野では、日本人の活躍の場もあるようで、実際に働いている方ともお会いすることも出来た。ただし、全体のシステムやハードゥエアに関しては、多少外国人の壁もあるように感じた。
【訪問先名称】:カリフォルニア工科大学 (Caltech)
http://www.caltech.edu/
【対応者】:Dr. Joseph L. Kirschvink 教授
http://www.gps.caltech.edu/MagLab/
【訪問内容】
教授が日本から戻られたばかりで、体調も崩しているとのことで声もかすれ、しんどそうだったが、とても熱心に説明してくれた。磁石のような性質を持つ虫など、興味深いものも見せていただいたが、やや専門外で事前知識がなかったことと、英語の理解力不足で、説明は詳しい内容があまりわからない部分も多かったが、地球科学的な視野で生物の進化をとらえているなかで、現在の環境問題に対するヒントも得られる可能性のある重要な研究なのかもしれないと感じた。
【対応者】:宗宮健太郎氏、蓑泰志氏、他
http://www.tapir.caltech.edu/
http://www.ligo.caltech.edu/~ajw/40m_upgrade.html
【訪問内容】
重力波の研究をしている日本人の方に、研究内容を紹介していただいた後、40m LIGOの実験装置を見せていただいた。国立天文台の方も多く来ているようだったので、三鷹にあるTAMA300、科学衛星 として計画中のDECIGOミッションと合わせて、宇宙の謎を解く研究成果が出ることを期待したい。
また、途中の移動中に腹痛でトイレに行ってかなり待たせてしまい、ご迷惑をかけたことをお詫びします。
【訪問先名称】:Madhu教授宅
http://astronautics.usc.edu/student-projects/space-exploration-studio.htm
【対応者】:Madhu Thangavelu教授(USC)
【訪問内容】
宇宙への想いを馳せるような夕暮れから日没にかけての高台のオープンテラスでの会話、質疑応答で、猫も一緒にいたり、自宅という今までとはひと味違ったシチュエーションで、教授のインド的な哲学的な雰囲気も含め不思議な空気を醸し出していた。宇宙旅行は経済性の観点からも、Point to Pointの移動が達成できることが必要との見解が印象的だった。
☆8月27日(木)
【訪問先名称】:Siera Nevada (SNC) (旧Space Dev)
http://www.sncorp.com/
【対応者】:Harrison Yelton氏、Russell Howard氏
【訪問内容】
Scaled Composites社のSS1にもハイブリッドモータを供給していた小型衛星ベンチャーのSpace Devが、創業者の死去によって、インテリジェンスなど軍事を含めた分野にも強いハイテク総合企業のSiera Nevadaに買収され、別途買収していた小型衛星メーカのMicroSat System社と合わせることにより、それまでの町工場的な開発から、総合的な技術企業としての事業戦略に基づく意思決定と、その中でのDivisionとしての宇宙分野に対する社内のウェイトの高さと事業としての成長を感じた。事業領域の中では、先の見えにくい商業有人宇宙船の持ち出しの開発よりも、軍事技術も含め衛星やその他宇宙機器類の官需向けや特定の顧客向けの商品やサービスの方がマーケットも大きく経営上も安定するので、比重が高くなっているのは当然の帰結とはいえ、先行するOrbital Science社などの例も含め、ユニークな技術で確実に継続的なナショナルプロジェクトに食い込み、業界内での地位と必要性を確保することが経営が安定するベンチャーの条件であることが、説明してくれた両氏のバックグラウンドからも端的に伺えた。
【訪問先名称】:X-PRIZE財団
http://www.xprize.org/
【対応者】:William J. Pomerantz氏
【訪問内容】
私も日本でのNational Point of Contact (NPoC) をしているSpace Generation Advisory Council(SGAC)のコロンビアのNPoCでもあるNicoleがX-PRIZE財団で働いているため、事前に連絡してみたが、あいにくその日は全員が出払っているということで、誰もいないオフィスで特別にPomerantz氏だけが出社して対応していただいた。Google Lunar X-PRIZREには、日本単独のチームはないはずが、プレゼンのチーム紹介の資料の中に日本の国旗が入っているチームがあったので気になっていたが、後ほど事情や経緯について把握することができた。
【ツアー終了式】
豊田篤氏による、大学院での研究内容の発表があり、純粋に双翼機の理論シミュレーション課題としては興味深かったが、実用性という観点で見てしまうと一気に問題点が多く目につくので、そこに対する質問や突っ込みも多くあった。ただむしろ逆に、こういう研究は、あまり無理せず理論だけを追求して行って応用価値は後世が決めるというような割り切った姿勢でもよいように感じた。その後、表彰式が行われ、五月女氏からツアー参加者各人が表彰状をいただいた。ツアーに参加すること自体に達成感や記録を残すという点で、非常によい記念が残って嬉しかった。
【まとめ】
今回のツアーを通して、X-PRIZE CUP2007以来、アメリカの宇宙ベンチャーの様子を肌で感じることができた。また、短い時間ではあったし英語の壁も多少はあったが、訪問先の宇宙ベンチャー企業の担当者の方に直接お会いし話をすることができた。
宇宙へ民間で挑戦したいと思い立った同志が数人集まったら迷うことなく起業し実際に作ってみるという、アメリカ特有のチャレンジスピリットをまざまざと見せつけられたが、まだまだゴールまでは遠い道のりのように感じるベンチャー企業や研究開発もあり、日本の中小製造業がもっと下請部品等のパートナーそして食い込める余地があるのではないか感じた。
ただ、今の状況では、たとえ具体的に日本企業との商談につながるような展開になっても、アクションをとりにくいので、やはり、日本側で商業民間宇宙分野の取引を国際的に扱って行くための新たな受け皿としての組織が必要だとも同時に思った。
逆に日本企業が彼らの技術を買ったり、日本人がハードウェアエンジニアとして彼らの中に入って行くのはITARや永住権などの条件的な制約もあり、やや難しいと感じた。
また、五月女氏だけでなく、アメリカで宇宙分野やその他の分野でご活躍されたり、学業に勤しんでいる日本人の方々と交流できたことは、とても励みになった。
今回、五月女氏をはじめとして、現地でツアーを準備していただいた方々に心から感謝するとともに、今回をきっかけに正式に会員になったことで、今後のNPO法人としてのSTSJの活動にも何らかの形で貢献できるように、微力ながらお力になれるよう努力して行きたいと思う次第です。
【参考】写真
http://picasaweb.google.co.jp/astrohiro/STSJTour_10th_inLA?authkey=Gv1sRgCJ6bmtrzsIb73AE&feat=email#

0