毎日の散歩は、近くにある小学校の下校時間と重なることが多いので、一緒に信号を待っているとき、私の横を元気よくすり抜けていく、彼らの会話が聞こえてくる。
先日も信号待ちで、高学年の男子が二人話していた。お互い公園で野球の約束をした。約束の後、
「T君、引越ししたからなあ」と背の高い方が言うと、小柄の子は、
「そうなんだよな、主軸がぬけたよ。それにお前、親友だったもんな」と言った。
「うん」とだけ背の高い方の子は答え、帽子に手をやった。
信号は青になると、二人は私の前を駆けていった。彼らのランドセルは激しく揺れ、次の辻で二人同時に「すぐにな」と言って左右に別れた。
私と愛犬は、ぶらりぶらりと歩く。沿道の家々の庭の花も賑やかだ。まだ白いモッコウ薔薇が咲いている。テッセンは終わった。などと毎日の楽しみを満喫して公園に着いた。
芝生の遊具では小さい子たちが母親ときゃきゃと楽しんでいる。いつもの季節のいつもの風景。私は、芝生を一回りするとグラウンドへ出た。広いグラウンドの一画で、子供たちが野球をしている。いつものことだ。私はなんら気にも留めていなかった。そのとき、ひときわ大きな歓声が起こり、その声の方をみると、白いボールが初夏の青い空に綺麗な放物線を描いて、バックネットから斜め遥かの桜並木に落ちた。打ったのは、先ほどの背の高い方の子かなと私は思った。背格好が似て見えた。
この一こまを思いださせてくれたのは、本日公開、牧野信一の
「初夏」
私はダイヤモンドに立つて、全身に力をこめて強くノツクバツトを振りました。私の打つた球《ボール》は高く/\初夏の青空へ飛びました。私はその球《ボール》を静な心で見上げてゐました。飛むだ球と一緒に私の悲しみも消えてゆくやうにさへ思はれました。私は河田のことを忘れたのではありませんが、そんな少さな悲しみよりも、はるかに大きなある力をその刹那にふと感じたのでした。
「この分では試合に出てきつと勝つて見せるぞ。」と私は胸に呟きながら、その次の球を更に力強く打ち上げました。球は、また高く、澄むだ空にコーンと鳴つて飛むでゆきました。

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