「姉さん、あたし知っているのよ。」妹は、澄んだ声でそう呟(つぶや)き、「ありがとう、姉さん、これ、姉さんが書いたのね。」
外食食堂のうた
毎日毎日が僕は旅人なのだらうか
驟雨のあがつた明るい窓の外の鋪道を
外食食堂のテーブルに凭れて 僕はうつとりと眺めてゐる
僕を容れてくれる軒が何処にもないとしても
かうしてテーブルに肘をついて憩つてゐる
昔、僕はかうした身すぎを想像だにしなかつた
明日、僕はいづこの巷に斃れるのか
今、ガラス窓のむかふに見える街路樹の明るさ
四月一日の朝刊を見ると、「武田麟太郎氏急逝す」という記事が出ていた。
私はどきんとした。狐につままれた気持だった。真っ暗になった気持の中で、たった一筋、
「あッ、凄いデマを飛ばしたな」
という想いが私を救った。
「――今日は四月馬鹿(エープリルフール)じゃないか」