春休みの子供たちは、広場での野球に余念がない。攻撃側の子供たちが固まって、話し込んでいた。(君たち、試合を見なくていいの?)と心うちで突っ込みを入れながら彼らの会話を聞いた。
「イチローカッコよかったよなあ」と小学生の一人が言えば、
「そうだ、そうだ。十回のヒットもすごかったけど、七回のイチローのバント、あれ、しびれたよな」と大人びた口調で年嵩の子が答えた。
「やっぱイチローってすごい。俺もイチローみたいになりたい」
「ふん、おまえに無理だね」と年上を誇示して偉そうに答えると、
「なんで?」と真っ赤な顔をして相手をにらみつけた。
「だって、おまえ天才じゃないもん」
「天才じゃなくても、努力すればいいんだって、父さん言ったもん」
「そんなこと、無理に決まっている」
「努力もしないで無理だと思ったら、負けなんだ」
それを聞いて年嵩の子は、何も答えずに、仲間に声援を送り始めた。言った本人は拍子抜けしたような顔をしてやはり声援を送り始めた。
そういえば、数年前、やはりここで野球をしていた子が、年上の子に点数の入らないことをからかわれて、「九回の裏まであきらめちゃいけないんだ」と叫んでいた。
そうだな、九回の裏二死でもあきらめちゃいけない。守るほうも、気を抜いてはいけない。そして努力をしないで無理だと思ったら負けだ。私もまた心の中でそのことばを繰り返す。
WBCで日本中が熱狂した。そこで野球といえば、正岡子規。
「ベースボール」 正岡 子規
○ベースボールの特色 競漕(きょうそう)競馬競走のごときはその方法甚だ簡単にして勝敗は遅速(ちそく)の二に過ぎず。故に傍観者(ぼうかんしゃ)には興少(すくな)し。球戯はその方法複雑にして変化多きをもって傍観者にも面白く感ぜらる。かつ所作の活溌にして生気あるはこの遊技の特色なり、観者をして覚えず喝采せしむる事多し。但しこの遊びは遊技者に取りても傍観者に取りても多少の危険を免(まぬか)れず。傍観者は攫者(キャッチャー)の左右または後方にあるを好(よ)しとす。
野球は、アメリカの少年たちが広場で始めたのが最初だというのを聞いたことがある。
所作の活発にして生気ある遊戯ゆえ、古今東西、少年たちの心を掴んで離さないもののようだ。
※四月からリニュアルします。

0