その道を行く途中、不意に甘い香りが鼻を捉えた。が足はそのまま止まらずに、香りの記憶を持ったまま先を急いだ。
今日も同じ道を歩いた。又同じ所で香りがした。今度こそと立ち止まり回りを見回すが、そこには緑しか無かった。人もいなかった。
夜になった今もまだ香りの記憶と共にある。「花の香り」がもしもネット上で検索できるとするならば、どういう手段をとるのだろう。
春 パウル・バルシュ
森は今、花さきみだれ
艶(えん)なりや、五月(さつき)たちける。
神よ、擁護(おうご)をたれたまへ、
あまりに幸(さち)のおほければ。
やがてぞ花は散りしぼみ、
艶(えん)なる時も過ぎにける。
神よ擁護(おうご)をたれたまへ、
あまりにつらき災(とが)な来(こ)そ。
担当した中でも懐かしい作品の一つ、上田敏
「海潮音」より。

0