読書blog ― すいへいせん

　遠い異国の、行ったこともない絵はがきのような風景に今年も私は立ち止まった。「この時期限定よ」と以前この家の主が言っていた。
　私は白薔薇で作られた門を、届け物をするためにくぐった。主の手入れの確かさに、訪れる者は心が和む。そして心騒ぐ。この、人の心を揺るがすことこそ薔薇の役目。と人間である私は思うのだが。
　冷気の含んだ五月の風が吹く。風は田を走り、その足で白薔薇たちを撫でる。白薔薇たちは、揺らいでみせるが、一本いっぽん自分を取り戻し、何事もなかったかのように凛とする。それが薔薇の矜持。
　

香いの狩猟者　 北原 白秋　

白薔薇はその葉を噛んでも白薔薇の香ひがする。その香ひは枝にも根にも創られてゐる。花とはじめて香ひが開くのではない。白薔薇の香ひそのものがその花を咲かすのである。