押川春浪「
月世界競争探検」:
明治四十年十月十日の東京新聞は、いずれを見てもまず読者の目を惹いたのは、一号活字で「恋の競争飛行船の月界探検」と表題(みだし)をだし、本文にも二号沢山の次のごとき、空前の記事であった。
月探検の途中で行方不明になった篠山博士を探しに、博士の遠縁の青年、雲井文彦と秋山男爵が競って旅立つ。首尾よく博士を連れ帰った者は博士の令嬢を自分のものにすることができる。
話の展開は、要するに、99年前(1907年)の日本版「スタートレック」だと思えば間違いない。で、ロミュラン星人とかクリンゴン星人が出てくる代わりに、地球人同士で(よりによって日本人同士で)戦ったりする。ナショナリズム/エスノセントリズムに染まっていない設定が、やけに新鮮に感じられる。
後でこれを読み返した時のために書いておくと、今日の新聞の見出しは「北朝鮮が核実験」。現実は厳しい。

0