一人の青年が、田舎者と公園で知り合いになって、一緒に飲食店に這入った。煙草を買いに行こうとすると、生憎雨が降り出したので、一寸のつもりで田舎者のインバネスを借りて出て行った。夢野久作「東京人の堕落時代」より。エロい話がけっこう多い。というか、エロいタイトルのついた話が多い。もちろん、性的な退廃だけでなく、いろいろな意味での「不良」たちの風景がつづられている。連載されていた「九州日報」は、今の「西日本新聞」の前身だそうだ。これを読む限り、夕刊スポーツ紙みたいなんだけどな。
「貸さない」
とは云えないまま貸したものの、田舎者は心配になった。急いで金を払って、雨の中を青年の行った方へ行くと、二人の友達と四辻で話をしている。その中(うち)に電車が傍を通ると、三人共飛び乗って行った。
大正十三年十月二日午後二時頃、浅草公園雷門前での出来事――。