昨日の昼下がり、家に友人が訪ねてきた。近くまできたので、立ち寄ったのだという。あいにく私もでかけるところだったので、玄関先で立ち話となった。せわしいながらも懐かしい話をしている私たちの周りに一羽の蝶が飛び、友人の周りを一回りして
ハルジオンに止まる。
私は、「そういえば、」と言った。「朔太郎に蝶の詩があったわよね」
彼女の瞳が、一瞬輝いた。「そうね、そうだわ、きっとあの詩の蝶は、こんな蝶がたくさん飛び交うのね」とハルジオンに止まる蝶を指差した。
私は「そうね、きっとこの蝶ね」
蝶は、私たちの指摘に戸惑ったらしい。すっと青い空へ、静かな方角へと去って行った。
ということで、彼女の言う「あの詩」はこれだと思うので、
「蝶を夢む」 萩原 朔太郎
騷擾
重たい大きな翼(つばさ)をばたばたして
ああなんといふ弱弱しい心臟の所有者だ
花瓦斯のやうな明るい月夜に
白くながれてゆく生物の群をみよ。
そのしづかな方角をみよ
この生物のもつひとつの切なる感情をみよ
明るい花瓦斯のやうな月夜に
ああなんといふ悲しげな いぢらしい蝶類の騷擾だ。
家のハルジオンに止まったのは、紋白蝶か、紋黄蝶か、黄色のビロードにくっきりとした黒い縁取りのアゲハ蝶か、どれを想像されるだろう。正解は申し上げないことにする。
みなさんが、今日出会う蝶なのだから・・

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