比較的新しい二車線道路は坂になっている。私は毎日愛犬を連れてその坂道の下ったところにある公園へ行く。坂道沿いに並んだ家々の庭。それぞれの家人が丹精こめて育てている植物を私は日々楽しませてもらっている。
坂道の中ほどの一軒の庭の隅、つまり道路を行くわたしにとって、目の前で群れている花。その花は、懐かしい。
ただでさえひりひりする心の自分をもてあましながらも、異性への想いをひっそりと抱きしめる。それが思春期。そんな私の想いが、受け入れてもらえないと知った、そして卒業式。友達が、「勿忘草をあなたに」という曲を教えてくれた。彼女がなぜこの歌詞を知っていたのかわからないが、とにかくノートに歌詞を写したらいいと言ってくれた。
別れても相手の心にずっといたい、私をわすれないで。そしてあなたの幸せを祈る言葉にかえて勿忘草の花を。という想いをこめた歌詞だったと思う。今から思えば、ずいぶん女々しい歌詞であるが、これを男女というふうに捕らえないで、親しい人との別れでもこの歌が心に沁みる。
では、勿忘草ってどんな花?
「 みみずのたはごと」 徳富蘆花
碧色の花
高山植物の花については、彼は呶々(どど)する資格が無い。園の花、野の花、普通の山の花の中で、碧色のものは可なりある。西洋草花(せいようくさばな)にはロベリヤ、チヨノドクサの美しい碧色がある。春竜胆(はるりんどう)、勿忘草(わすれなぐさ)の瑠璃草も可憐な花である。
当時園芸が趣味の大人に勿忘草をどんな花かと訊ねたら、花束でもらったことがある。この花の素直さに「幸せ祈る言葉にかえて・・」という一節がすぐに思い浮かんだ。そして人の幸せを祈ることができる大人になりたいと思ったことを今でも覚えている。

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