田の水に青い空が映る。その青い張力に五月の風が走る。その風を受けながら、ぼんやりと畦に立つ媼が一人。彼女と目のあった私は、頭を下げた。彼女は、腰に手をやったまま、日本手ぬぐいの頭で軽く頷いた。
彼女の丸く小さな瞳は、また田へ戻った。苗へのいとおしさがあり、そして子供たち、孫たちへの思いが彼女にはあるのだろう。今日は母の日。彼女に楽しいことがありますように。
さて、母の日に、こんな話はどうだろう。
ここに母一人、娘一人の母娘がいた。母は、娘の成長を楽しみにし、娘も母の美しさを誇りに思っていた・・・
このバランスが崩れるときがくる。それは娘が恋をしたときである。娘が恋をした相手とは・・・
「或る母の話」 渡辺 温
一生、いじらしい処女であった母!
智子は書置を信ずることが出来た。
そして、二十年の永い間、慈愛深い母親として自分を育て上げてくれた、浄かな童女の死顔の上に、永いこと泪に暮れていたのであった。
手紙の告白からいきなりこういう誠実な場面というのは、少し無理がある。娘の中に葛藤があったはずである。そういったことを差し引いて読めば、文章よし、仕掛けよしで読ませてくれるので、すんなりと“母親”の人生に思い巡すことができる。ということで母の日に選んでみた。
※体調不良により、しばらく休みました。うにさん。Jukiさんにご迷惑をおかけしました。ありがとうございました。

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