例によって空腹の状態で作品を眺めると、食べずに読んだのを後悔させられる作品があった。
「
朝御飯」、林芙美子の作品である。自分で作る朝食、旅先で食べる朝食の数々。
彼女の朝食、基本は:
淹(い)れたてのコオフィ一杯で時々朝飯ぬきにする時があるが、たいていは、紅茶にパンに野菜などの方が好き。このごろだったら、胡瓜(きゅうり)をふんだんに食べる。胡瓜を薄く刻(き)ざんで、濃い塩水につけて洗っておく。それをバタを塗ったパンに挟んで紅茶を添える。紅茶にはミルクなど入れないで、ウイスキーか葡萄酒を一、二滴まぜる。私にとってこれは無上のブレック・ファストです。
(きゅうりはまだ続いていた。)季節毎の朝食の献立も、結構あっさりしているようだ。
パンの内側に「ピーナツバタ」を塗って、トマトのスライスを挟んで食べるとうまいらしい。今度試してみよう。
時代を感じたのは、例えばこのくだり。ある温泉の宿へ止まった時の事。
ちょうど五月頃の客のない時で御飯もいちいち炊(た)けないのかも知れないけれど、二、三日泊っている間に、私は二、三度ふかし飯を食べさせられて女中さんに談判したことがある。どう云うせいなのか、これは三、四年前のことだのに、この無念さはいまだに思い出すのだから、食いものの恨みと云うものも、なかなか根強いものだと思う。
五月といえば書き入れ時じゃない?と思いつつテキストの奥付を見ると
底本の親本:「林芙美子全集」文泉堂出版
1977(昭和52)年
「林芙美子選集」改造社
1939(昭和14)年
となっていて、成る程。
東北のご飯がまずいって!作者が気の毒だ。旬の頃に出かける事が出来なかったのだろうか。例えば沿岸部の港町の冬。汁碗に盛られた、旬の魚が入ったみそ汁。出汁はいらない、魚がそこにいる。
・・・そうか、朝の魚、駄目だったのね。

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