「世界史の偉い人」を選んだら、お釈迦様、イエス・キリスト、ムハンマドと並んで、この人が入るだろうな。あともう一人二人選ぶとしたら、だれだろう。まず、孔子? 次はだれか科学者か発明家かな。スティーブンソン(蒸気機関車)?エジソン(電球)?ベル(電話)?ライト兄弟(飛行機)?いずれにせよ、文学者は十傑には入りそうにない気がする。シェークスピアあたりが11位から20位ぐらいに入るかもしれん。
その割に、青空文庫の900番台への偏りって何よ、と
分野別リストを見て思いもするが、まあ、青空文庫は世界の縮図ではないのだから、これでいいのだ、きっと。
マルクスがイエニーを失った悲しみにうちかって資本論を完成しようとした努力は、寧ろ悲痛な姿であった。カールはフランスに行き、スイスにゆき、今度こそ丈夫になって帰ろうとした。しかし、イエニーのいない地球のあらゆる土地は、彼の体と心とにしっくり合わなくなった。旅行は輾転反側のように見えた。一八八三年三月十四日――イエニーの死後三年目の早春に、人類の炬火のかかげ手カール・マルクスはメートランド・パークの家の書斎の肘掛椅子にかけて、六十五年の豊富極まりない一生を閉じた。
宮本百合子『
カール・マルクスとその夫人』

0