河上肇『
御萩と七種粥』
出獄後半年たつと、昭和十三年になり、私は久振りに自分の家庭で新春を迎える喜びを有ち得たが、丁度その時、正月七日の朝のことである、青楓氏が自分のうちで書初めをしないかと誘いに来られた。私はかねてからの獄中での空想が漸(ようや)く実現されるのを喜んで、すぐに附いて行った。
前半のおはぎの部分は自分の叔母についての、後半の七草がゆの部分は画家の津田青楓についての想い出を語った随筆です。素朴かつ穏やかな題材で、それに相応しい文体で書かれていますが、回想される人々に対する批判的な態度が頑ななため、読後感はとても苦いです。
著者のいだく、共産主義に敵対的でありつづける一部の無産階級や転向していったかつての仲間たちへの苛立ちの激しさに、党派的な帰属を経験したことのない私は、取りつく島も見つけられないような距離を感じてしまいました。
関連サイト:

0