武男は昨年の夏初め、新婚間もなく遠洋航海に出(い)で、秋は帰るべかりしに、桑港(そうこう)に着きける時、器械に修覆を要すべき事の起こりて、それがために帰期を誤り、旧臘(きゅうろう)押しつまりて帰朝しつ。今日正月三日というに、年賀をかねて浪子を伴ない加藤家より浪子の実家(さと)を訪(と)いたるなり。
徳冨蘆花の『
不如帰/ほととぎす』は、1898年11月から1899年5月にかけて書かれた新聞の連載小説だそうで、足かけ2世紀前の作品です。言葉遣いはかなり古めかしさを感じますが、話はけっこう現代的。
この作品の登場人物は、男爵だの子爵だのといった家の人たちです。そういった身分制度は今の世の中にはありませんが、「ヒルズ族」とか「セレブ」な人たちに置き換えたら、そのまま連続ドラマになりそうじゃないですか。
恋のさや当てあり、夫の海外出張あり、嫁と姑の葛藤あり、引き裂かれる幸せな新婚生活あり、職場のお金を使ってしまってサラ金から金を借りて埋め合わせる男あり。不治の病に倒れる女あり。
海に身を投げようとすれば通りかかった人に助けられたり、駅で動き始めた上り列車と下り列車に悲劇のヒロインとヒーローが乗っていて窓越しにお互いに気づいたり、復讐を果たした悪者が不気味に笑ったり。
あまりに在り来たりな筋書きで、これじゃ視聴率取れないかなあ。え、これって実話だったんですか、そりゃびっくり。
現代と違うところを探すとすれば、上中下に分かれている下の巻ですね。日本が戦争(日清戦争)を起こして、朝鮮半島沖に軍艦を送って中国軍と戦っています。で、主人公が重傷を負い、悪者は戦死します。
いやー、ここらへんは、今日の設定ではドラマにはなりませんな。はっ、はっ、はっ。なんといっても私たちの国には平和憲法がありますから。
今年も、らぶ・あんど・ぴ〜す!

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