1905年
7月31日。ちょうど100年前の今日。サハリンに上陸した日本軍に対してロシア軍が降伏し、日露戦争が終結する。
横光利一の『
神馬』という1917年の短編より:
暫くすると五十人余りの子供らが教師に連れられて上つて来た。彼の前で教師は子供らを些よつと止めて説明した。
「皆さん。この馬は、日露戦争に行って、弾丸雨飛の間をくゞつて来た馬であります。馬でさへ国のため君のために尽して来たのでありますから、皆さんは猶一層勉強をして、国家のために尽さねばなりません。」
この短編の主人公、「彼」とは、この馬である。もちろん「彼」は自分の武運や忠君を誇るでもなく、戦争の悲惨を説くでもなく、子どもたちを見つめ返すだけである。
そして彼は異性に心をときめかせる。
その時遠くの方から馬の嘶声が聞えた。彼は刺されたやうに首をあげて耳を立てた。
(おや! あれや牝馬の声だぞ。)
しかし、繋がれている彼は牝馬に走り寄ることは許されない。
横光は馬にはこれ以上のことを語らせないが、人間である読み手の心には、帝国主義に翻弄される虐げられた階級としての意識がかすかに芽生えたに違いない。

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