馴染みの飲み屋のご主人の案内で、最近活動が活発化しつつある松本アルプス探検隊と奈川村へ山菜狩りに行った。天気予報では快晴のはずだったのだが、車を降りて入山の準備をしているうちに本降りの雨になったしまった。みんなの視線が一斉に僕に向く。僕だって、好きで雨男をやっているわけじゃないんだけど…。
その後、猛烈な藪漕ぐに悪戦苦闘するうちに何とか天気も回復し、山から下りて車道脇の山林で、コゴミ、タラノメ、フキノトウ、コシアブラ、行者ニンニクといった春の香がいっぱい詰まった山菜をわいわい言いながら収穫した。
「最後に取って置きの場所に連れて行こう。ワサビの群生があるんだ」
松本の保健所に勤めているIさんに連れられて、お助け小屋手前の渓流に降りる。何度か沢を渡渉すると目の前に巨大な堰が…。
「こいつは右から高巻こう」
信州の自然が大好きで、とうとう大阪から引っ越してきてしまったというAさんが、急峻な笹薮に取り付く。松本アルプス探検隊のやる気満々組も、当たり前のようにその後を続く。
「え〜と…。僕はここで待ってることにする」
松本アルプス探検隊へなちょこ組代表である僕が発した声に、EちゃんとFちゃんが続く。やがて、堰の上からやる気満々組の姿が消えたのを見届けてぽつりとひと言。
「さてと…。先に車で下りちゃって、温泉に入ってラーメンでも食べようか」
「そうしよう」「うん。そうしよう」
てなわけで、ここで待っていると言った舌の根も乾かぬうちに、さっさとその場を後にしてしまったへなちょこ組が、松本に戻って食べたのが「分福」のラーメンである。
ちょっとばかりうらぶれた雰囲気が漂うビルの2階に店を開く分福は、1年以上寝かせた高級味噌を使った味噌ラーメンが売りとのこと。ところが温泉でのんびりしすぎた僕たちが店に入ったのは、昼の営業時間終了ぎりぎりの午後1時25分。
「ごめんなさいね。もうラーメンくらいしかできないんだけど」女性店員さんが申し訳なさそうに言う。
仕方がないので、味噌ラーメンは次の機会に食べることにして、カウンター席に座ってラーメンが運ばれてくるのを待つ。閉店間際だというのに、店はほぼ満席状態。白を基調にした店内は、なんだか喫茶店を改造したような造りだ。
店内の写真を撮り、僕の横に座っていた男性が食べているラーメンを何気なく見ててびっくりした。野菜ラーメンのようだが、その野菜の量が半端じゃない。一品料理の野菜炒めを、ラーメンの上にそのまま乗せたようなボリュームである。小食な僕ならば、麺にたどり着く前に腹いっぱいになってしまうだろう。
テーブル席でワンタン麺を食べている男性はさっきからワンタンばかり食べているのだが、それでも後から後から丼からワンタンが出て来て、まるで手品のようだ。もしかして、大盛り上等のお店…?ちょっと不安になる。
間もなく運ばれてきたラーメン丼は……うわっ!でかい!こいつはまいったなあ、と丼の中を覗いたら麺の量はそれほどでもなく、思わずホッとする。どうやら大盛りなのは具だけのようだ。
ひと口飲んだ醤油ベースのスープは、極シンプルで臭みも無く飲みやすい。麺はやや細めのちじれ麺だが、やけに色が白い。ちょっと柔らかい気がするが、それは僕が硬麺を好むからそう思うだけなのかもしれない。喉越しはとても良い。スープとの相性もいい感じだ。でも、野菜ラーメンもこの麺を使っているとしたら、食べ切る前に麺がのびちゃうんじゃないかなあ…などと、いらぬ心配をする。
麺が大方無くなるまで楽しみに取っておいたチャーシューは豚の赤身。うう…硬いよこれ……。店の入り口に、勧進帳を持った巨大な狸の置物がデンと立っている。なるほど。だから「分福」なのか。
味もけっこういけるのだが、この店はどちらかというとそのボリュームが人気の秘訣なのかもしれない。
さてと。お腹も膨らんだし、宿に戻ってビールを飲んで、やる気満々組が帰ってくるまでひと眠りするとしようかな。

住所:長野県松本市桐3-2-5 松本市桐デリシア桐店西側TSUTAYAの2階 TEL:0263-32-6156 定休:火曜日、第3月曜日 営業時間 11:30〜13:30 17:00〜20:30 ラーメン 580円、チャーシューメン 1000円、ねぎラーメン 800円

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