てなわけで、夜中の2時過ぎ、ようやく日和田高原キャンプ場の駐車場にヘロヘロになって到着したのはいいが、やめれば良いものを、そんな時間からビールを飲み始めたどころか妙に勢いがついてしまい、僕が伊北に着いた頃「いま中央高速に乗りました!」と連絡をくれた岳の助さん組のキャンピングカーが駐車場に到着した時には絶好調になって、さらに缶ビールのプルトップを抜いている始末。
けっきょくほとんど眠らないどころか、完全に酔っ払った状態で、集合時間の朝6時半を迎えてしまった。
ぞくぞくと集まる、松本アルプス探検隊。そして山菜、キノコ狩りですっかりお世話になっている「キノコの会」のメンバーの皆さん。松本山海亭のご主人であるTさんが僕に近づいたとたん「うわっ!潤平さん、酒臭せ〜〜っ!」と叫ぶ。
だってしょうがないじゃん。ついさっきまで飲んでいたんだから。
全員集まったところで、集合時間だけ決めて、本格派組とお気楽組に分かれて、各々が山に繰り出す。もちろんおいらは、お気楽組ね。
これまで行ったキノコ狩りの山は、八ヶ岳の末端とは言え、けっこう登りがきつい登山道だったのだが、今回はキャンプ場から国道を隔てて広がる緩やかな森の中である。
「お〜い。潤平さん。ここにxxタケ(全然キノコの名前を覚えていない)がいっぱい生えてるよ!」と、お気楽組に付き合ってくれたTさんが呼んでくれるのは嬉しいのだが、行ってみれば、すでにほとんどTさんが採ったあと……。
ちょっとあなた冷たいじゃないの?
そうこうするうちに、段々とメンバーがばらけ始め、いっしょに歩いていた真子ちゃんにいたっては「あたし、足が痛いから駐車場に戻って寝ているわ。バイバイ」とあっさりリタイアしてしまって、気がつけば広い森の中にぽつんとひとりになってしまった。
とは言っても、森のあちこちからメンバーの声は聞こえてくるし、ぶらぶら歩けば、その姿もちらほらと見える。なにしろ、こちとら酔っ払ったままだし、山がなだらかなこともあって、すっかり気を抜いて下を向いたまま「キノコなんて全然ないぞ〜っ!」などと叫びながらうろつくうちに、気がついたら周りに人の気配をまったく感じなくなってしまった。
うわっ!急に背筋が寒くなってきた……。
なんだか、いつの間にかずいぶん山深いところまで来ちゃったみたい。
心細くなって、とにかく国道方面に進もうと森の中をずんずん歩き、「ああ、あの森の窪みを過ぎれば国道に出るはずだ」とほっとしたのもつかの間、そこは窪みじゃなくて深い谷だった。
どうやら、いつの間にか、北と南を完全に間違えたらしい。
「なんだよ。国道に出るつもりが、逆にどんどん山の奥に入っちゃったのか…。それどころか、南北逆になっていたってことは、森を下ったところにある駐車場に向かうつもりが、どんどん駐車場から離れて山を登っているってことじゃないの!」
慌ててきびすを返し真反対に早足で歩き始めたとたん、朽ちたナラの木の根に足を取られて、思い切り転んでしまった。
「痛って〜〜っ!」せっかく収穫した数少ないキノコが籠から飛び出して散乱している。見るも無残なほどバラバラだ。泣きそうになりながら膝をつき、ズボンの汚れを落としていたら、目の前の老木の根から、なんだか巨大なキノコが、火炎のごとく踊り狂うように生えている。
もしかして、これって天然マイタケの群生??
ふだん、スーパーで見るマイタケに比べて、その一枚一枚があまりにも巨大なので確信は持てないが、恐る恐る鼻を近づけて嗅いだ香りは、まさしくマイタケじゃあ〜りませんか!
「キノコの会の人に鑑定してもらって、偽物ならば捨てればいいや」ってな気分になって、いま泣いたカラスがもう笑う状態で、マイタケらしき謎の巨大キノコの群れをブナの気からバリボリとはがす。
「うおぉぉぉぉぉぉ!はがせばはがすほどマイタケ特有の香りが辺りにただようぞ!こりゃ、もしかしたら大発見かもしれないぜ」
腰に下げた籠を謎のキノコでいっぱいにし、国道方面と勝手に見当をつけた方向にずんずん進んでいると、草に覆われた、最近使われた形跡のまったくない細い林道が現れた。林道ならばいずれ広い道に出るだろうと判断して、草を掻き分け30分ほど道を辿るうちに、案の定国道361号の標識が立つ広い道に飛び出した。
助かった〜〜っ!
山から飛び出したとたん、道路脇に止めたワゴン車のトランクを開け、そこに腰を掛けてのんびりサンドイッチを食べていたオヤジさんと目が合った。
「おっ!キノコかい?」オヤジさんが興味深そうに、サンドイッチをくわえたまま腰を上げた。
「これ、もしかしてマイタケじゃないかと思うんだけど…」籠からはみ出した巨大なキノコの群れを見せる。
「おおっ!こりゃ、見事な白マイタケだよ!」
やったぁぁぁぁぁぁぁl!
「あんた、これをどこで採った?」
「いや〜、森の中で迷っていたもんで、どこと言われてもいったいどこだったか……」
「もったいないなあ。マイタケは毎年同じ場所に生えるんだよ。目印でもつけてくればよかったのに」
「ありゃま、そうなんですか?そりゃ、もったいないことをしたなあ」毎年来るつもりなんかないから、本当はあまりもったいながっていない。
「ところで日和田高原のキャンプ場って、ここからどのくらいあるかわかりますか?」
「ああ、キャンプ場ならこの道をずっと下って行けばそのうち着くよ。でもここからだと5kmくらいあるよ」
「げ〜〜っ!ごきろぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
国道脇に「御嶽山登山道・地蔵峠入り口」と書かれた標識が立っている。
潤平さん、いくらなんでも登り過ぎでしょ!
初秋の日差しに照らされながら、遮るものもないアスファルトの道をてくてく1時間ほど下り、ようやくキャンプ場の駐車場にたどり着いたのは、集合時間の15分前。なんだかキノコ狩りっていうよりも、ひたすら歩いた記憶しかないんだけど……。
その後、やがて戻ってきたメンバーたち。みんなすげ〜〜っ!どこで手に入れたのか怪しげな買い物カゴに、溢れんばかりのキノコを採っている!
さて、皆さん揃ったところで、キャンプ場のバーベキューコーナーに移動して、わいわい言いながら、ものすごい量のキノコを突っ込んだ鍋を火にかける。これじゃ、鍋の蓋がしまらないよ。いくらなんでも入れすぎじゃない?
それよりなにより、鍋の中で一際鮮やかな朱色をした可愛らしいキノコは、もしかしてベニテングダケっていう毒キノコなんじゃないの?そんなキノコ入れて大丈夫なの…?キノコのプロってのは、色々な意味でのプロがいるから、怖いったらありゃしない。
それでも、出来上がったキノコ鍋は不思議なもので、キノコも鍋の中にお行儀よく納まって、それを皆さん、次々とお代わりしながら平らげていく。
小食の僕は一杯いただくのがやっと……ってか、今頃になって二日酔いの兆しが現れて、胸焼けを抑えるのに必死なのであった。
こりゃ、早く松本に帰ってひと眠りしなきゃ、夜の部に差し支えるぞ。 ← まだ飲む気でいる……。

12