良く晴れた日曜日。
サーバのメンテナンスで客先に出向く。久しぶりの休日出勤だ。
夕方には作業を終え、横浜辺りの中華料理屋で、餃子をつまみに生ビールを一杯…なんて気楽なことを考えていたら、突然のトラブル発生!
けっきょくサーバを作業開始前の状態に戻すのに6時間も掛かってしまい、何のことはない、肝心のメンテナンス作業に入ったのが、夜の10時過ぎになってしまった。
広い客先のビルにぽつんとひとり。ウンウン唸りを上げる旧式のサーバと睨めっこして一夜を過ごす。学生時代や若い頃は2日や3日徹夜しても何ということもなかったのだが、さすがに寄る年波には勝てないらしい。しかも徹夜の理由が仕事であるから尚更である。
しかしまあ、ものは考えようだ。
日曜の夜に徹夜するということは、翌月曜日、みんなが休み明けの重い足取りで仕事に向かう朝、僕は仕事を終えて、ルンルン気分で帰ることができるのだ。
朝8時に出社してきた客先の担当者にメンテナンスの完了を伝え、会社に状況説明の電話を1本入れて、通勤ラッシュとは逆に行く、下りの京浜東北線に乗り込む。不思議なもので、明け方まで鉛のように重たかったはずのまぶたも今は軽く、あくびのひとつも出てこない。
横浜で電車を降り、満員電車に無理やり乗り込むサラリーマンの姿にほくそ笑んで、軽快な足取りで階段を下りる。
腹が減っては戦は出来ないので、横浜で何か食べて帰ろうとするが、さすがに通勤時間に開いている食べ物屋は、立ち食い蕎麦屋かファーストフードの店くらいである。
パンを食いたい気分ではないので、うどんを食べて帰ることにしよう。
相鉄線の改札に入り、お気に入りの「星のうどん」で、ちょっとだけ奮発してゲソ入りかき揚うどんを注文する。奮発するといっても390円だ。
この「星のうどん」は、立ち食い蕎麦屋には珍しいうどん専門店である。だから正確には立ち食いうどん屋である。自家製の麺はさぬき風、汁は京風を売り物にした、さっぱりしたうどんを食わせる店だ。何より、ベチャベチャしていない揚げたての天ぷらを乗せてくれるのが嬉しい。
気合を入れるために、カウンターに置かれた、すり下ろした生姜をたっぷり天ぷらの上に乗せ、ついでに七味唐辛子も大量に掛けて、音を立ててシコシコの麺をすする。サクサクのかき揚の中に紛れた、ゲソのコリコリした食感がたまらない。
「あ〜っ、ちくしょう。うどん食い終わったら、売店で缶ビール買って飲んじゃおうかなあ」などと、麺をすすりながら考えるが、いくら何でもそれでは、疲れ果てたサラリーマンのおっさんになってしまうので我慢することにした。でも考えてみれば、駅で缶ビールを飲まなくたって、僕は立派な、疲れ果てたサラリーマンのおっさんなのである。
まあ、そんなことはどうでもいいや♪
相鉄線の下り電車にどっかり腰を掛け、口の周りを拭いながら自宅に帰る。家には誰もいなかった。
「ラッキ〜♪鬼のいぬ間に♪鬼のいぬ間に♪」
いそいそと台所に行き、冷蔵庫からキンキン冷えた缶ビールを両手に抱えて居間に戻り、テレビをつけて「暴れん坊将軍」なんぞを眺めながら、缶ビールのプルトップを勢いよく引き、お気に入りのジョッキに注いで一気に飲み干す。
「ぷはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。やっぱり、このイッパイだよなあ!」
幸せな気分で500mlの缶ビールを続けざまに2本空けたら、思い出したようにまぶたが重たくなってきた。
「まあいいか。午前中だけ寝て、午後からは昼飯を食いがてら温泉にでも行くか…」
いよいよこれから悪代官を成敗しようとする、暴れん坊将軍の「予の顔を忘れたか!」という台詞が、やけに遠くで聞こえた気がした。
………
なんだか、とても幸せな夢を見ている時に、遠くから声が聞こえて目が覚めた。
「いつまで寝てるの!もうみんな夕飯食べちゃったわよ!あなたはそのまま朝まで寝るの!?」
………
ああ…僕の素敵な徹夜明け休が…徹夜明け休がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…

【星のうどん】
横浜駅西口、相鉄線改札内。横浜市西区南幸1-5-24 TEL:045-316-4569 営業時間 7:00〜22:00 定休日:基本的に無休
店内の製麺機で打ち上げた讃岐風うどん専門の立ち食い蕎麦屋。麺には独特の粘りとコクがある。博多風と表示された麺汁は、薄口醤油をベースに昆布系の出汁を使っている。天ぷらは野菜(かき揚)、げそ(かき揚に小さなイカげそが混ざる)、芋、ゴボウ等。生姜、大根下ろし、ネギが乗ったうどんに醤油をかけて食べる「生搾り醤油」も、辛口だが喉越しが良くて旨い。

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