巨人軍の聖地にあの笑顔が帰ってきた。太陽のような天真爛漫な笑顔が帰ってきた。
くも膜下出血を経験し、肉体的にはほとんどダメージが残らなかった自分と照らし合わせ、健康の塊のようだったミスターならば、すでにほとんど後遺症も見られないのだろうと安易に考えていたため、麻痺が残り、ポケットしまったままの右手と、ひとりで席に向かう危うい足取りを見て、その後遺症の深刻さにショックを受けたが、でも、あの笑顔はやっぱり変わっていなかった。
長嶋茂雄の巨人軍入団と同じ年に生まれ、長嶋の活躍とともに成長した僕にとって、長嶋の笑顔は、常に心の支えになっていた。
少年野球では常に背番号3を無理やり背負い、サードの守備については、長嶋のダイナミックなプレーを真似して、エラーを重ねた。
涙の引退式の時には、中学をズル休みして後楽園球場に駆けつけ、監督一年目の記録的最下位の時にはジタンダを踏み、翌年の劇的な逆転優勝の時には「これぞ長嶋!」と涙を流した。
僕はけっきょく巨人軍ファンではなく、長嶋ファンだったのだ。
2004年の3月。
テレビ画面に突然流れたニュース速報のテロップには衝撃を受けた。
「長嶋茂雄。脳梗塞で倒れる・・・」
それ以来、ミスターの姿は公の前に現れなくなった。
僕は、時々、新聞に小さく載るミスターの近状を探しては一喜一憂し、復活の日を想像しては、ひとりワクワクしたものだ。
そして背番号3は、再び野球場に戻ってきた。
麻痺の残る右手とおぼつかない足取り。好プレーに、左手で膝を叩いて拍手を表す痛々しさ。
しかし、その顔にはあの笑顔が光っていた。
この日、巨人軍はいいところなく負けた。
だからどうした。
背番号3が帰ってきたじゃないか。
テレビ画面に、あの笑顔が映し出されるたびに、こみ上げる思いを抑えきれず、僕はうんうんと頷きながら、ぽろぽろと涙を流した。
長嶋茂雄に栄光あれ!
明日は、お気に入りの中華料理屋に行き、スポーツ新聞のトップページを眺めながら、久しぶりに中華弁当でも食べて、長嶋茂雄の笑顔に酔おうではないか。

相鉄線『南万騎が原』駅前 中華料理『福宝』の中華弁当850円
TEL:045-364-2366 水曜定休 営業時間:11:00〜20:00
リーズナブルな価格で本格的な中華料理を提供する庶民派中華料理店。出前の時間を加味して麺を茹でるため、食卓にラーメンが乗る頃には、麺の塩梅がちょうど良くなっている。中華弁当の種類は多いが、夏ならば、チャーハンとつけ麺のセットがお勧め。

2