先日、外出した際に思わぬ所で見つけた成瀬巳喜男監督の「銀座化粧」。
どうしてこんなところにと、驚かされたが、幾つかの黒沢作品に混ざり、たった一枚置かれていたのを購入した。

田中絹代の演じる、銀座のバーの雇われマダム雪子は、三味線の師匠宅の二階を間借りして一人息子と共に暮らしている。 この雪子を取り巻く、昔馴染みやバーの客、女給仲間や近所の人たちのエピソードが情感豊に映し出されて行く。
そして、終盤、昔の女給仲間で、今はパトロン持ちの静江(花井蘭子)の「心の恋人」(堀雄二)の登場により、ストーリーは、ゆったりとしながらも急展開に進む。
女給であることを偽って、取り繕った表の顔を見せる女達の行動も面白いが、結局は、素顔を見せた若い京子(香川京子)が幸せを掴む。
随所に織り込まれた「笑い」によって、シリアスになりがちなテーマを重いものに感じさせず、日本的な情感を感じさせながら、爽快な気分で終わらせる手腕は素晴らしい。
1951年(昭和26年)の作品ということで、当時の銀座の様子が多く映し出され興味深い。
都電の走る銀座通り、後に高速道路に変わる掘割りの築地川、三原橋界隈や下町の風情の残る新富町界隈の路地裏。 自分が子供だったころには存在した、隣近所のコミュニティーも懐かしい。三味線の師匠の旦那のような世話好きなおじさんも地域には必ず存在した。
成瀬作品には、当時の世情や風俗が取り込まれていることが多い。
この作品でも、チンドン屋や紙芝居、路地や公園で遊ぶ子供など、当時を伝える大衆文化が多く登場する。 夜のバーを回り、花などを売る子供たち、当時の日本はまだそういう時代だったのだろう。
こういった部分は、山の手のホワイトカラーの暮らしでのエピソードが多く、世情をあまり取り込んで見せない小津安二郎作品とは好対照なものを感じさせる。
ノスタルジアを感じさせる映像の魅力も確かにあるが、成瀬作品の魅力は、日本的な情感の細やかさ。これは、時代がどう変わっても受け入れられるものと思いたい。
黒澤、小津、溝口などの監督とならんで、国外でももっと評価されて良いと思うのだけれど、作品を入手できる機会が大変少ないのは、非常に残念。

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