インターネットの図書館「青空文庫」の収録作品を紹介する有志による非公式ブログです。
一人ぼつりと二階の自分の室に入ってくると、出たままになっている炬燵の口から、また足を入れた。今日は寒い薄日のさした日だ。からだを少し横にして、天井を見ていたが、親しみがたく、落ちつかぬ。ぼやっとした感じがこのからだを取りかこんでいる。寒さが沁みわたる。もう三月の二十九日。東京ならば桜も咲こうという頃なのだ。 ここは遠野町と、花巻町との中継ぎの村で宮守というところ。両方から出る馬車が、この村まで来て、客を乗せ換えて引き返して行くところである。