仕事や雑事があまりに忙しのでしばらく周りをみる余裕が全くなかった。今日の夕方、散歩道、コスモスが揺れ、鶏頭が立っていた。立ち止まる私の頬に、涼しい風がさっと渡り、月日の流れを改めて教えた。
「散歩ごくろうさん」と顔見知りがぼんやりする私に声をかけたので、はっとして「はい」と答える。その人の残り香を追って、愛犬の鼻は後ろを向く。
七月の夕方、首からタオルを提げた彼女は、汗を拭きながら私に同じ事を言って声をかけた。「日常」という言葉の信頼がわずかに揺らぐ。そして変わらないものと変わってしまったものが交差する点。それが私の心の奥深くへ沈んでいく。前を向こう。蒼い空が金色を侵食するのをこの目で見よう。「決心」の気負いを解きほぐすようにして虫の鳴き声がする。若山牧水の
「秋草と虫の音」エッセイが恋しい。生きているものへの歌人のまなざしは素直で暖かい。

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