田仕事の合間、背筋を伸ばした老女が、私の犬を見て「かわいいね」と言ってくれる。
「ありがとうございます」と例を述べる。知らない人とのふれあいもまた、散歩の楽しみのひとつである。
水の入った田一帯に、風が小走り駆け抜ける。一羽の白鷺の「頭の上の槍のような白い毛」を揺らしながら。
私はいつまでみていても飽きない光景と思うのだが、じっとしていられない犬に引っ張られた。今は青い空を映す田も漆黒の闇になれば、銀河鉄道が走るのかもしれないなと思いながら。
「銀河鉄道の夜」 宮沢 賢治
八 鳥を捕る人
「ほんとうに鷺だねえ」二人は思わず叫びました。まっ白な、あのさっきの北の十字架のように光る鷺のからだが、十ばかり、少しひらべったくなって、黒い脚をちぢめて、浮彫りのようにならんでいたのです。
「眼をつぶってるね」カムパネルラは、指でそっと、鷺の三日月がたの白いつぶった眼にさわりました。頭の上の槍のような白い毛もちゃんとついていました。

1