南方熊楠は1941年
12月29日に74歳の生涯を閉じた。「
棄老伝説に就て」に
吾邦固より無類の神國で、上代の民純朴だつたは知れ切つた事ながら、時世と範圍相應に今日から見ると、奇怪な習慣も隨分行はれたは大化の初年迄人死する時、人を絞して殉ぜしめ、信濃國で夫死すれば妻を殉ぜしめたなどで訣る。されば地方によつて老人を棄て風も有つたのだらう。
とある。
今日の新聞の一面記事は
厚生労働省は28日、75歳以上のお年寄りの外来診療について、医師の治療を1カ月に何回受けても医療機関に支払われる診療報酬を一定にする「定額制」を導入する方針を固めた。寝たきりの在宅患者への往診など、高齢者向け医療の一部ではすでに定額制が導入されている。厚労省はこれを外来医療へと拡大して医療費の抑制を図る考えだ。高齢者に対して、必要度の高くない医療が過剰に行われているとされる現状を改善する狙いだが、患者の受診機会の制限につながる可能性や、医療機関がコストを下げようと必要な医療まで行わなくなる危険もあり、今後、適用する疾病の範囲や条件を慎重に検討する。
というものだった。
今から何十年か経ったら、これなども老人を切り捨てる「奇怪な習慣」だったと振り返られるのかもしれない。
「純朴」って何だろうと思って辞書をひいたら、「すなおでかざりけのないこと。人情厚くいつわりのないこと」と書いてあった。うーん、今の私たちは後世に「純朴な人たちだった」と言ってもらえるだろうか。無理だろうなあ。まわりを見回すと、確かにそういう人たちもたくさんいるのだけれど、そうじゃない人たちのほうが圧倒的に声が大きいし力も強い。

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