今朝ブラジル戦を見て、一番印象に残ったのは、ブラジルの華麗なプレーでもなければ、日本の必死な姿でもなかった。試合終了後の中田英寿選手の姿だ。彼は、その屈強な体を芝生にずっと埋めていた。大の字の彼に、カメラマンは、芝生に這うようにして、下から彼の表情を映し続けた。容赦のないカメラにも彼は無関心だった。空を見つめた眼の白い部分がわずかに赤く染まったかと思うと、彼はブラジルの選手と交換した黄色のユニフォームを頭から被った。
アナウンサーは「結果を受け止めなければならないんです」と言った。彼には無用の言葉だろう。まず彼は、そういった常套句の上にはいないだろう。彼がいるのは、現実と夢の間とでもいえばいいのか・・・全力を出しきった敗者だけが知ることができるボーダーラインなのかもしれない。
「フォスフォレッスセンス 」 太宰 治
私の夢は現実とつながり、現実は夢とつながっているとはいうものの、その空気が、やはり全く違っている。夢の国で流した涙がこの現実につながり、やはり私は口惜(くや)しくて泣いているが、しかし、考えてみると、あの国で流した涙のほうが、私にはずっと本当の涙のような気がするのである。
日本の子供たちが朝早くから自分たちを見ている。それを承知の中田英寿選手は、静かに立ち上がった。その眼に涙はなかった。
自分をさらけ出した彼が、ブラジルの選手より輝いてみえたのは私だけだろうか・・・

0