国木田独歩は移住開墾の地を求めて北海道に出向いた。
札幌を出発して単身空知川(そらちがは)の沿岸に向つたのは、九月二十五日の朝で、東京ならば猶ほ残暑の候でありながら、余が此時の衣装は冬着の洋服なりしを思はゞ、此地の秋既に老いて木枯しの冬の間近に迫つて居ることが知れるであらう。
『
空知川の岸辺』より。
全編にわたって圧倒的な大自然への畏敬がつづられているが、一つひとつの描写はとても細やかである。
ここには詳しくは記されていない事情により独歩は北海道暮らしを断念したらしい。もし彼が北海道に移り住んで創作を続けていたら、その後の(自然主義文学ではなく)“自然文学”はどんな姿になっていただろう。

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