純太と慎也は病院に運ばれたが、幸い二人とも手足に軽い打ち身があるだけだった。
純太は、翌日にはいつもどおり山仕事に出かけていった。慎也と隆人は、万作爺さんの家に招かれることになった。
万作爺さんの家は、影という集落の山の中腹にポツリと建っていた。段々畑の小道を上がると、万作爺さんは縁側で一人煙草を吸っていた。
「おぉよう来た。さぁ、あがってあがって。じきに純太らも来る」
万作爺さんは、笑顔で慎也らを見上げた。
中に入ると、狭い部屋の食台に豪華な皿鉢料理が並べられていた。
万作爺さんは早くから連れ合いを亡くし一人暮らしだと言う。近くに住む娘夫婦が食事の世話をしていた。万作爺さんが「おい来たで」と言うと、台所の方からエプロン姿の中年女性がビールを持って現れた。万作爺さんの娘ルミだった。娘と言っても、もう五十はゆうに過ぎている。小柄だが端整な顔立ちのルミは、恥ずかしそうに慎也らに挨拶をすると、三人にビールを注いでまた台所の方に消えていった。
「あの竿は鮎竿ですか?」
慎也が奥の間に掛けてある竹竿を見つけた。
「ああ、あれはなぁ」
と万作爺さんが言いかけるが早いか、隆人は立ち上がって竿に近づいた。
「えっ、鈴木徹斉って」
隆人が驚くと、慎也も立ち上がって竿に近づいた。
「そうよ、おらの兄貴が鈴木徹斉からもろうたもんよ。作ったのはおらじゃけんどな」
「えぇ、鈴木徹斉と知り合いなのですか」
「知り合いどころか、鈴木徹斉に泳がせ釣りを教えたのはうちの兄貴、ほんで鈴木の竿は全部おらがつくったがぜ」
万作爺さんは林業技術交流団の時の話を始めた。
「じゃあ、鈴木徹斉の泳がせ釣りはお兄さんから」
「あぁそうながよ。その竿は鈴木が伝説の天竜川決戦で使った竿ながぁ。まあおらの作った竿が良かったきに鈴木徹斉も勝てたがよね」
驚く隆人らを見て満作爺さんは高笑いをした。
「純太はな、あの竿で泳がせ釣りを習うたがぜよ」
二人は驚いた顔のままで万作爺さんの方に向き直した。
「つまり、あの乾純太の泳がせ釣りは鈴木徹斉の師匠にあたる兄さんが教えたってことですか」
「ほうよ。ただ、兄は純太に全てを教えるまでに死んでしもうたが」
「あれで未完成なんですか」
「おおよ、鈴木は全部体得したけんど純太はあれで半分ながやと」
「あれで半分」
隆人は息を飲んだ。
その時こんばんわと玄関の方で太い声がした。万作爺さんは「おぉ入れ、先にもうやっちょるぞ」と声を張り上げた。「おじゃまします」と丁寧な言葉で乾純太が現れた。続いてとてつもない巨体が鴨居をくぐった。目立ての銀治だ。
純太と銀治は慎也と隆人に対峙するように立ったままだ。一瞬緊張が走る。昨日死闘を演じた四人が向かい合った。
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高知県 馬路村森林鉄道


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