「分かった。その代わり一つだけ条件がある」
アイリは自分の顔が緊張で強張るのを感じた。
きっとエロい条件を突き付けられるに違いないと不安になったからだ。
★
増子さんは最近キャバクラに嵌まっている。
いつものように行きつけのキャバクラに行く。
新しい女の子が入店していた。
「アイリです」
彼女はそう名乗った。
増子はアイリに見覚えがある気がした。
新人なのに何故だろう。
どこで会ったのだろうか?
増子は考える。けど思い出せない。
どっか違うキャバクラから移ってきた娘なのかな?
それで以前の店で会ったとか。
増子はそんな想像をした。
けど、そうじゃない、と記憶が増子に告げた。
アイリは知らん顔のまま水割りを作っている。
「ねえ、オレたち、以前どっかで会ってないかい?」
意を決して増子はアイリに尋ねた。
アイリは一瞬困った顔をした。
けど、やがて諦めたようにこう言った。
「…おじさん、ナツミのパパだよね?」
アイリは増子の娘の親友でよく家にも遊びに来ていたのだ。
アイリは続けて言う。
「…このバイトのこと、うちの親には内緒なんだ。おじさん、黙っててくれる?」
増子は黙り込んでしまう。
しかし、やがてこう言った。
「分かった。その代わり一つだけ条件がある」
アイリは自分の顔が強張るのを感じた。
きっとエロい条件を突き付けられるに違いないと不安になったからだ。
アイリは恐る恐る尋ねる。
「条件って、…なぁに?」
「キャバクラにオレが来ていたこともナツミには内緒にしてくれ!」
増子はそう言って顔の前に手を合わせた。
アイリは拍子抜けした。
内心ではどんな条件を突き付けられるかとワクワクしてる自分もいたからだ。
勿論、ちょっとだけ。
★
人生には時々。
とても恥ずかしい瞬間があるのだな。
けど。
そういう時の人ってなんだかちょっとだけ可愛いらしいのだな。
アイリはそんな風に思い、漸く上手く笑うことが出来た。

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