彼女の腕には焼きごてのような痕があった。
「これ、根性焼きの痕?もしかして、元ヤン?」と尋ねる。
彼女は応える。少しうんざりしたように。
「昔好きだった男の名前を入れ墨してたの。でも、消したんだ」
「ああ、やっちゃったね。大失敗じゃん」って北野は思う。
入れ墨をした時、彼女はきっとこう思ったんだ。
彼は運命の人。
この恋は永遠。
彼こそが私のアイデンテイティ。
その証として、彼女は腕に入れ墨を入れた。
誰かの存在にアイデンテイティを感じてしまう。
まずそのことが愚かだ。
アイデンテイティは自己の内部に見出すものだ。
ましてや感情に任せて、入れ墨を入れちゃうなんて大失敗だ。
身体はキャンパスじゃないし、永遠なんてものはないのだから。
でも、
その一方で思っちゃう。
若い恋にはこんな一途さってあるよな、と。
誰かのことがすごく好きで、
そのことを何かの形で示したくて、
後先考えずに入れ墨を入れちゃうんだ。
その時に彼女が感じているもの、信じているもの。
それは“永遠”なんだ。
永遠なんてものはない。
そう思うよ。
けど、“永遠”を信じたその一瞬の中には確かに永遠はあるんだ。
矛盾するようだけど、そんなふうに思うんだ。
なんで、
彼女の無器用な一途さが、ちょっとだけ愛おしい。
焼きごての痕がちょっとだけ愛おしい。
いつかの自分にはあって、今の自分にはない感情だから。
永遠なんてものはない。
けど、“永遠”を信じた瞬間もないと言うのは寂しい気がする。
欲張りかな。
あああ。
何だかまた、「らしくない」ことを書いてるよね。
あとでガッカリしそうだ。
BGMは “好きな男の名前腕にコンパスの針で書いた”
(BY 面影ラッキーホール)

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