カヨから「人のココロを学べ」「生きるとは何ぞやを勉強せよ」などと言われつつ渡されていた桐野夏生「玉蘭」を読んだ。
女性作家の、しかも個人的にニガテ系な人間心理系の小説ということで、なかなか読みにくそうだなーという先入観が強かったが、冒頭から中国・上海のハナシが出てきたので、旅という側面からの興味で読み進んだ。予想していた以上に人間心理の奥底までほじくり返していくような徹底した描写が多く、このような場面に慣れていない自分にとっては、正直直視するのがキツイ状況でもあった。が、いわゆる「時空を超えた」ストーリー展開は興味深かった。夢か現実か、イチゼロを最後まではっきりさせないアナログ的な演出?も自分にとっては新鮮だった。これがこの作者の文体なのかなぁ。続きがどうなるのか心配で、あっという間に読んでしまった。
冒頭にあった質のコメントは面白かった。
幻想:「新しい場所に来た→新しい世界が始まる」
実際:「新しい場所に来た→自分が知っている世界の最果ての場所に来た」
対策:「果てに来てしまったと思ったら、どんどん知らない場所に行く→それが最果ての最前線になる」
、、、なるほど。要は、環境を変えたところですぐには何も変わらないのだと。常に環境を変え続け、自分の世界を広げていくことが生きていく上で重要なのではないかと。(と、勝手に解釈したり。)
また、小説内に出てくる質の日記「トラブル」が興味深かった。それこそ、上海の街の地名などが出てくるため、おもわず地図を見て確認したり。太平洋戦争がだんだん近づきつつある1920年代という時代に、「新しい世界」で暮らす日本人の緊迫した雰囲気も伝わってきた。
最終章はなんだか唐突という気もしたが、なんとなく安心したというか落ち着いた。主題はその前の章で終わっているようだが、単行本化されたときに書き下ろされたとのこと。読者をフィクションの世界から現実世界に呼び戻してくれたようで(ある意味フィクションだが)、作者の親切心?がうかがえて好印象かも。
上海に行きたくなったな。

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