『ノーカントリー』
NO COUNTRY FOR OLD MEN
2007年アメリカ映画 122分
脚本・監督・製作:ジョール・コーエン、イーサン・コーエン
製作:スコット・ルーディン 原作:コーマック・マッカーシー『血と暴力の国』
撮影:ロジャー・ディーキンズ 音楽:カーター・バーウェル
編集:ロデリック・ジェインズ(ジョール・コーエン、イーサン・コーエン)
出演:トミー・リー・ジョーンズ(エド・トム・ベル保安官)、ハビエル・バルデム(アントン・シガー)、ジョシュ・ブローリン(ルウェリン・モス)、ウディ・ハレルソン(カーソン・ウェルズ)、ケリー・マクドナルド(カーラ・ジーン・モス)、ギャレット・ディラハント(ウェンデル保安官代理)、テス・ハーパー(ロレッタ・ベル)、バリー・コービン(エリス)、スティーヴン・ルート(ウェルズを雇う男)、ロジャー・ボイス(ロスコー・ギデンズ保安官)、ベス・グラント(カーラ・ジーンの母)、アナ・リーダー(プールサイドの女)
狩りをしていたベトナム帰還兵のルウェリン・モスは、偶然死体の山に囲まれたピックアップ・トラックを発見する。そのトラックの荷台には大量のヘロインと200万ドルという大金が残されていた。モスは自分の人生を大きく変えることを知りながらも、その金を奪ってしまう。この瞬間からモスの命は狙われることになる。追っ手に車のタイヤを撃ち抜かれ、肩に銃撃をくらったモスは懸命に自宅へと逃げ帰った。現場に置き去りにした車の検査証プレートが相手に渡ってしまったいま、自分の身元は簡単にわれてしまうだろう。身の危険を感じたモスは愛する妻カーラ・ジーンに実家に帰るように命じ、自分は金の入ったカバンと共に逃亡の旅に出る。消えた金を取り戻すために雇われた、コインの表裏で殺しを決める殺し屋アントン・シガーは、金が奪われた現場に来ていた。金を奪った男の車や状況を確認した後、自分を案内してきた麻薬の売人をその場で始末する。そして、盗まれた金に取り付けられていた発信機と、ホースの先から圧縮した空気が飛び出すエアガンのような不気味な酸素ボンベを携え、モスの行方を追いはじめる。翌朝、エド・トム・ベル保安官と部下のウェンデルが現場検証にやってきた。そこに残された検査証プレートの外されたモスのトラックと、無残に横たわる死体の山を見たベル保安官は、モスが事件に巻き込まれたのではないかと考える。このままでは彼の命が危ないと思ったベルはモスの身柄を保護するため、そして殺し屋を捕らえるために彼らの行方を追う。モスは別の町のモーテルにチェック・インし、金も隠して用心を重ねていた。しかし、すぐに殺し屋シガーは自分の居場所をかぎつけやってきた。慌てて別のホテルへと隠れ場所を移動するモス。しかし、時すでに遅し。シガーはもう目の前まで来ていた。シガーはボンベのようなエアガンで、モスが隠れる部屋の錠のシリンダーを打ち抜いた。そのシリンダーがモスの腹に命中し、モスの腹からは血があふれ出す。激痛に耐えながらも金を持って部屋から脱出したモスは、メキシコへと逃げ倒れこむ。モスが次に目を開けたのは病院のベッドの上だった。そこにはカーソン・ウェルズと名乗る別の殺し屋が座っていた。ウェルズは「素直に金を渡せば命は助けてやる」と、モスに取引を申し出る。モスは病院からウェルズに電話をかけた。しかしその電話に出たのはシガーだった。「おれに会いに来い。金を渡せば女房を見逃してやる。でないとふたりとも死ぬことになる。これが最良の取引だ」。妻という弱みを握られたモスは「分かった」と答えるしかなかった。しかし、ベトナムを体験・生還したモスは金を奪い殺人鬼から逃げおおせる自信があった。一方シガーのほうは、金は自ずと自分の所に戻ってくる運命にあり、自分から逃げられる者はいないという自信があった。その頃、ベル保安官は実家に戻っていたカーラの元を訪れていた。モスがいかに危険な状況に置かれているかを説明し、彼を助けたければモスの居所が分かり次第すぐに自分に連絡をするように説得する。冷静な目を持つ法の男ベル保安官は、昔ながらの秩序と正義が悪に勝つという自信があった。【公式サイトより引用】
第80回アカデミー作品賞ほか4部門受賞作をようやく鑑賞。
コーエン兄弟って昔は好きだったけど、『ファーゴ』、『オー・ブラザー!』、『バーバー』あたりがさっぱり合わなくて、『ディボース・ショウ』、『レディ・キラーズ』は観てもいなかったので長篇は久し振り。
筋自体は単純なものだが、国境3部作で知られるコーマック・マッカーシーさん原作だけあって今までの作品より文学性が強い。
原題の"NO COUNTRY FOR OLD MEN"はW.B.イェイツの詩からつけられたタイトル。
「老人のための国はない」という通り、冒頭からエド・トム・ベル保安官は昔を懐かしみ、理解しがたい犯罪が起こるようになってしまった今の国を憂う。
1980年はベトナム戦争が終わって数年が経ち、アメリカが大きく変化した時代。
ベル保安官はまさに古きよきアメリカの象徴であり、舞台となっているテキサス(実際のロケ地はニューメキシコ)もそうした昔ながらのアメリカの原風景が残る場所だが、それはもはや失われつつある。
一方、無表情のまま殺人を重ねていくアントン・シガーはアメリカという国に襲いかかる不条理そのもの。
手錠で警官を絞め殺して脱走シーンに始まり、ガソリンスタンドの主人とのやり取りからして全身で不気味さを醸し出している。
キャラクター設定がどうなっているのかは知らないが、それを非アメリカ人のハビエル・バルデムさんが演じたところにも意味があるのだろう。
面白いのは、シガーの魔の手から必死に逃れるルウェリン・モスを含め、3人が同じ画面に現れないこと。
シガーとモスは撃ち合ったり、電話で会話をしたりはするが、面と向かっては対峙はしない。クライマックスとなるであろう最後の対決さえ描かずに結果だけ見せるというのはやはり意図的なものであろう。
最後にベル保安官が妻に語る夢には死のイメージがつきまとう。
それは彼自身の死でもあり、法と正義が通用しなくなったアメリカという国の死でもある。
もっとも、それはWASPにとってのアメリカに過ぎないけれども。
★★★1/2