2015/3/16

残念な知性  日常のこと

ええ、あれは、金曜日の夜も遅くだったと思います。回りは一杯飲んで帰ったというような、そんな雰囲気の、終電、終電だったかもしれません。ほら、わたくしには、その路線の終電とJRに幾分かの、ああ、ですから、思い出してきました。終電だとJRには間に合わないんです。なので、終電の一歩手前の、それはもう、その時間になると30分に一本ですから、30分に一本ということで、しかも、つまりJRにとっては終電というわけですから、中々の混みようでした。3つか4つ進んだ先のホームの停車の最中、怒鳴り声が聞こえてきまして、その時間帯はワンマンカーなもんですから、駅員はいない、そこで、車掌兼運転手が駆け寄ってくる、その姿を見るころにようやくわたくしも外の様子をうかがったというか、あれ、なかな進まないなと社内がざわつく、あの空気が出来てからのことです。呑み帰りや、そこに紛れてわたくしのように終電まで働いている者もいる、そんな中で、何かトラブルがあったようです。それも一人の男性と一人の男性に。そこでのぞいてみますと、一人の50も過ぎたか、どこかみすぼらしい、汚らしい恰好をした、背も160に達しない小柄な男でした。ワンカップを片手に電車に乗ってくるようなああいう、それでいて、どこか人懐っこい顔で、短髪、それもほとんど禿げあがっているといってもいい頭髪の男性が、これはまた背の高い、といっても、至って普通のサラリーマンに、その小柄の男性と比較してのことか、ずいぶん背が高く見えましたけれども、180はあったでしょうか、もう少し大きく言ってもよいような、そのサラリーマンに対して、ええあと、眼鏡をかけていたと思います、その、太い縁の、年齢はそうですね、40も過ぎたところでしょうか、30代だったかもしれません。そのサラリーマンに対してですね、その小さな男が体当たりを食らわしておったのです。体当たりといっても胸を突き上げて、一生懸命、なんせ、その身長差があるものですから、胸から、ジャンプしてぶつかりに行っている。サラリーマンも受けて立つ、受けて立つというのも可笑しな話ですが、動じず、手は出さずにいる。手は出さず、そこに、はっと気付かされる分けです。その小柄な男、何か車内でトラブルがあったのでしょう、腹が立ち、どうしようもなかった。そこで因縁をつけて、(勝手な解釈として因縁といっても全く差支えはないかと思います、だってそうでしょう、身なりから見ても、どう考えても、因縁をつけたのは小柄な男性で、面倒くさいことに巻き込まれたサラリーマンという構図に他ならなかったのですから)男に食って掛かった。でも、手を出してはいけない(その男にとっては手を出しているうちに入らない)。なぜか。男は蹴りもしていなかった。なぜか、それが暴力だからでしょう。その小柄な男にとっての暴力は手を出すこと。暴力を使わず、実力行使に出た結果、あの、胸当たりとでもいいましょうか、無様な体当たりとして表出したのではないでしょうか。つまり、知性はしっかりと足枷となって機能しているのです。殴らなければ、拳が物を言わなければ、それ以上の沙汰にはならないと、そう踏んだのではないでしょうか。もちろん、何度も飛び掛かって体当たりしておりましたので、怒りの具合は相当程度なものだったと推し量られたのですが、冷静な部分はあったに違いありません。残念な知性です。
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2012/12/22

だからあなたもバンパイア  日常のこと

たぎる血を抜きにいく
血の気は荒いほうではないんだけれど、淀み踊る
学生のころ、初めてのとき、急激な寒気と吐き気に襲われたこともある
あれは飲み明けの睡眠不足の二日酔いだったせい
社会人になってしばらくしてから、献血カードの次回可能日を迎えるとすぐにいくようになった。

待ち時間に軽い気持ちで
恩田陸二冊買い込んで

ああ、疲れと暗澹たる心の澱が体を重くする
早く血を抜かねばならぬ

悪血という考え方があり、後頭部の襟元の当たりに切れ目を入れ血を抜く療法があったらしい。何かの経済紙でみた。江戸時代か明治初期の豪傑の健康法だった

経済紙など日経ビジネスしか知らぬ

必ず問診の前にチェックを受ける
新しいパートナーと性交渉しなかったこと、投薬のなかったこと、大きな怪我も病気もなかったこと、健全に健康に生きた4ヶ月にお墨付きをもらい、それは完全に自己申告だが、自分を誉めてやる

さて、初めてイエスを押さねばならぬ事態を迎えた。ああ、献血のチェック項目引っ掛かるやんと新婚旅行に二の足踏んだのは、行き先を探し始めたこの夏の話。

押し間違いを戻り戻られつつ、問診へ。と、その前に旅行から帰ってきたのは? どちらに?などとお姉さんに聞かれる。
メモに記入するお姉さん。

しばらくして、いくちさーん、との声

70を回ったころのお祖父さんに優しく諭された。

帰国して四週間たたんと献血できんよ

お祖父さんはどちらかというと、呼ばれた医者というところ。メモを片手に医者的立場から制度をたんたんと説明した。

せっかくきて、残念やけどね

いらっとはこないんだけど、いらっとくるひとは容易に自分に重ねられる。

ここまで、35分
さっきのお姉さんにめちゃめちゃ謝られる。

次は、年始は、4日から空いてますので、年末年始はお休みです、ほんとに、ほんとにすみません、4日から、4日からは空いてます。次また是非、4日からまた、是非。

ぬぬ、おれがこれしきのことで、二度と来るかと気分損ねるとでも思うたか。二度と400ml に協力せぬと思うたか。

必死よのう、おんなご。

献血してほしいという意思の代弁者。何が彼女を掻き立てるのか。その悲願に歪む表情の奥にあるのは何か。血を欲するは、誰か。

難波で受け取ったビアードパパ一個無料券期限なしは、いまだ財布の中で眠っている。





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2012/10/14

隆夫さん  芝居のこと

いきなり、それで参加してしまうわけ。もちろん、知らないバンドですよ。初めてあった人達ですよ。それが弾けちゃうの。ぴったしあってんの。ソロなんか始めちゃって、わーって盛り上がってんの。店んなかも何、すごいどういうこと、今入っていった人は、て驚くヒトとなんかそれも当然みたいな感じで柔軟に受け入れて盛り上げてる人もいんの。それで、演奏終わって席もどってきて、キラキラってした目でみたよ。え、なんで、もうすごかったです、ってもうなんか涙目よ。いや、まあスタンダードナンバーだからね。スタンダードナンバーだからね、ってふぃー! おれ、スタンダードナンバーってわかんなくて、あああれがスタンダーナンバーかって、つぎ回りにみんながいるときに、おれもう、隆夫さんがそういう、そういうことやったってたの、おれはもう生で見てるし、知ってるし、で、もうなんか知ったかぶってんの。ちょっとでも回りより上に立てたと思ってんの。それでいっちゃったよ。あのスタン、スタン・・・あ、スタンダード?ああ、それ、スタンダードナンバーって曲よかったっすよねっていっちゃったよ。『いっちゃったか。』いっちゃったよ。
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2012/10/6

そろそろ買わなあかん  日常のこと

猿のように額の狭い、白髪の天然パーマのばあさんが前の席に座った。
時々見かけるこの髪質は、ありゃほんものだろうか。

左手薬指の指輪が目についた。

ダイヤモンドだ。
よくみると二つつけている。
シルバーリングは結婚指輪、石付きは婚約指輪だ。

半世紀連れ添った旦那は昨年の冬になくなり、
四十九日にタンスから出した婚約指輪を、
半世紀ともに生きてきたシルバーリングに重ねた。


シンプルに銀色の円だったリングは半世紀で四角くなったの。
力をいれても形は変わりはしないのに、月日の流れは偉大なものよね。

友人の結婚式に、入学式に卒業式、二人の記念日に
柄にもなくレストランに誘われたこともあったかしら。
晴れの日にだけ左手に輝いて私に自信を与えてくれた。
ダイヤモンドの瞬きはあの頃とちっとも変わりはしない。

長く連れ添ったあなたみたいなものですもの。
四角くくなったりもするものでしょう。

あなたが亡くなって私の第二の人生が始まったの。
晴れの日ばかりと言わずに、私に輝きをくださいな。


もう少しそこで待っててください。
形が変わるほどには待たせはしないから。



あ、横のじいさんと一緒に降りた。じいさん、ごめん。



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2012/8/26

メッセージ  芝居のこと

とあるミュージカルを観てきた。

仕事で脚本兼演出の方にインタビューする機会があり、
そのあと練習を何回か取材したこともあって楽しみにしていた。

星の国の子どもと人間が仲良くなって、星の国に帰るために協力する、
というストーリー

八年前に初演した脚本で、今回が三度目。
キャストは毎年公募のオーディションで選ばれ、キャストや時事を見ながら毎度内容は練り直している。

今年、特に変えたところは?と聞くと、
いじめ問題を受けて、他者と分かり合う大切さを込めたとの答え。

宇宙人の子との友情ということですか?
もちろんそれもあるんですが、今回重きを置いたのはホタル(主人公) と学校の友だちとのかかわり合いですね、とのこと。

ホタルは、星が好きで、オタクの域に達している。
それが宇宙人の子キラを見つけるきっかけになるが、
男の子みたいにがさつで星の話ばっかりするキラは
女子の中から少し浮いてしまっているのだ。


なんとなく星好きのホタルが活躍してそのままでいんだよ、
的な展開を予想していたのだが、ちょっぴり違った。

星の国にピンチを救おうと必死になってくれる友だちがいるキラをホタルはうらやむ、

わたしはテレビの話とかゲームとかよくわかんなくて、女子たちと
話が続かないんだ。
木登りするとお母さんに男の子みたいだって怒られるし。

星を好きなのは間違いなく純な気持ちだったのだが、
そこには固執もあった。

そんなホタルにキラは優しく助言する、

女の子らしい格好もしてみたらいいんだよ。
似合うかもしれない。
それで、どうしても嫌ならその時はやめればいいんだ。
テレビやゲームだって面白いかもしれないよ。


的なことを言ってた。
そうか、そうきたか。

ラストお別れのシーンで男子どもが

宇宙飛行士になってキラに会いに行く
星の国まで行けるロケットを作る人になる

と夢を誓うなか、初めてスカートを履いて現れたホタルは応えた

何になりたいかまだわかんないや。
ずっと星のことばっかりみてきたけど
もっといろんなことに興味を持って見渡して
それから決めようと思う。

キラを助けようとする場面では、
何をしていいか迷っている女子たちに
勇気を出して全員で取り組めるアイディアを提示。
みんなは協力して動いてくれた。


そう、歩み寄ったのはホタルだ。

キラとの友情は、地球の美しさを守る壮大なスケールのものだったけど、
キラが残していったものは、
ホタルがこれからクラスの中で、いや他人(地球人)と関わり生きていくなかで、
どう振る舞うべきかを考えさせるきっかけになった。

ホタルが星を好きなままいるかは分からない。
クラスの女子たちと打ち解けたようにも見えたが、
この非日常的な経験を終えたあとそれも保たれるかどうか。


でもホタルは歩み寄ることを一つ覚えた。
少しずつ未来は変わっていくはずだ。


キラは宇宙に帰っていく。
別れを悲しむホタルに幼なじみの男の子が、
慰みの声をかける。彼はホタルが好きだ。浮いていてもがさつでも。
元気を取り戻して憎まれ口で返すホタル。
からかわれたと思った男の子が去り際に言う、

そんな似合わないスカートなんて、はきやがってよ!

ホタルをずっと見守ってきた彼なりのエール。
そうだよな、それはそれで少し寂しいよな。





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