家内はまだ起きてこない。夜中二時に目が覚めたら、隣の布団でまだ起きて小説を読んでいた。その頃、マーモーは夜のリビングを悠々と闊歩していたのだ。
暫くすると、ギシギシと階段が軋む音がする。パジャマ姿の家内だ。頭の毛が飛んでいる。マーモーのことを話したら、とうとう脱出したのと笑顔をつくった。
マーモーが、柵の広がったところからまた出ようと頭を出した。また出たいんか。忘れもんでも思い出したんか。と、注目するとマーモーは頭を柵の外に出した状態で静止した。
「うぅ、考えてる。出たら叱らえるんちゃうか思うて考えてるわ」
と家内が笑う。
「叱らんから出ておいで」
家内は、更に嬉しそうな声で両手を差し出して呼びかけた。
マーモーの静止がかわいい。やがて、きょろきょろ首を振って左右を伺うと、小さな前足を交互にそろりそろりと出した。大きな腹と腰が柵の間だに挟まって絞られる。放漫な体がペタンと音を立ててフローリングに着地した。
「出た出たっ」
家内が喜ぶ。
差し込んだ朝日がレースのカーテンにさんざめく。マーモーの柔らかい毛の一本一本にも光の粒子が降り立った。ぽっちゃりとした放漫な輪郭が仄かに揺れ動く。まるで神秘的な力でも降臨したかのようにマーモーが二、三度跳ねる。埃が粉雪のように舞い上がってマーモーを包んだ。
おかしい、昨日あんなにケンカしたのになんで今朝こんな雰囲気なんだろう。ま、わざわざ蒸し返す必要もないのだが。年のせいか夫婦げんかに勢いと持続力がなくなったような気もするし。ま、それはそれでええか、とか考えてたらマーモーが近寄ってきた。
ボクと家内をじっと見て口をもごもごと動かす。何か言っているようでもある。
そう言えば、ケンカの時も小屋から半分だけ顔を覗かせてじっと見ていたっけ。上目遣いの暗い目で覗き見するようにじっと見ていた。きっと、ボクらに言いたいことがあるのだろう。
あっ、と家内の顔が曇る。
マーモーのお尻から茶色い粒がポロポロ落ちた。ひぇ〜ウンチだぞ。点検するとあちこちに落ちていた。さらに、テーブルタップの線がかじられていた。
「ま、やっぱり一人で外出するのはあかんわね」
家内は、かじられたテーブルタップを差し出した。
ボクは少しばかりは自由をさせてやりたいと思ったが、いつもの調子で、「ええやんか、そのくらい」とやると絶対ケンカになるので、今日のところは、家内との諍いを避け首を立てに振ることにした。
