和歌山の貴志川出身者である年配のUさんに聞いた話を思い出した。
Uさんの村にはじめて映画と言うものが来たときの話だ。
会場となった野外広場には映写機とスクリーンが向き合って設置されていた。
続々とゴザやシートを持って集まる村民。
ところが、なぜか全員が映写機の方を向いて座ったらしい。
「えっ、そっちから出てくるんやろ」

「そらぁ出てくる方から見とかな、なぁ」

と皆口々に映写機を指さした。
唖然とする主催者らは何とか皆を説得しスクリーンの方を向かせた。が、まだ映写機の方が気になって後ろを向いたり前を向いたりする者もいた。
いよいよ映画が始まりスクリーンに人が映ると皆どよめき、映画の進行とともにすすり泣き



や笑い声



などが静かな山村にこだました。
最後のクライマックスになると持参した餅や蜜柑、おひねりらがスクリーンに向かってぼんぼん投げつけられ

、主催者らの悲鳴が上がったという

あわれスクリーンはぼろぼろとなり、主催者らは泣く泣く後片付けをしたらしい。
なぜ、ボクがそんな話を急に思い出したのかというと、この前関空のロビーを歩いていて、女子高生ぐらいの旅行グループに呼び止められたからだ。
「ちょっとすいません、おじさん、ここ」とシャッターのところを指して、押して欲しいとインスタントカメラ

を渡された。
おーけー

とボクは距離をとった。
10人ぐらいのギャルが寄り添ってピースなどのカメラポーズを取る。ボクは中腰になって「はい、シャッター押しますからにっこり笑ってくださ〜い」とレンズを覗いたら、その女の子らがロビー中に響くぐらいで爆笑を始めた。
別にそんなに笑わなくてもいいのにと思ったら「おじさんカメラ反対や〜ん」と一斉に言われた。
ボクは片目を閉じてカメラのレンズの方を覗いていたのだった。
もしシャッターをきっていたら、危うくボクの上品な鼻毛がドアップで写るところだった

確かになんか変だなとは思ったのだが、いやはや何とも情けないことである。
写真を撮り終えたボクは、そう言えば昔カメラ(映写機)の方を向いた人たちがいたなと、一人照れ笑いをしながら早足にその場を去ったのである
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