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ランチタイム希望ですけど、なにか?  ブログ小説

2月の頭の午前、面接に行った。
面接してくれたのは、平田という名前の店長さんだった。
俺の親父と同い年くらいの、なんかヒョロリとした感じの人だ。

「えっと、森永君、18歳。もうすぐ高校卒業だね、おめでとうございます」
「あ、ありがとうございます」
「進学は、しないの?」
「一応、放送大学ってことです」
「ふーん、放送大学。通信教育ってこと?」
「はい」
「希望時間帯はランチタイム。・・・ランチタイムなんだ?」
「え?はい」

ランチタイムじゃダメなのかな?
募集には『ランチタイム急募』ってあったけどな・・・。

「なんでランチタイム希望なわけ?」
「・・・・・・は?」
なんで、って?なに?
「いや、別にいいんだけどね。若い男の子がどうしてかなぁって思ってね」
「・・・はぁ・・・・・・」
「大体がディナータイムとか、18歳以上だったらナイトとかねぇ。そっちの方が時給いいし。あと、キッチン希望とかが多いんだけどね」
「そうですか」
「それにランチって、はっきり言って主婦の人たちばかりだよ?」
「はぁ」
そうでしょうね。
「いいの?」
「・・・・・・・・・・・・」
なにが言いたいんだろう、この人。

面接は、なんか従業員室みたいなところで、休憩中の女の人がご飯食べてる横でやったんだけど、その人がチラチラこっちを気にしてるのが気になった。

「つまりさ、おばさんたちに混じっての仕事になっちゃうんだけど。もっと同年代のコたちのいるディナーとか、男性が多いキッチンとかが良いんじゃないかなと思うんだけど、どう?」
そう言って平田店長は俺を見た。
その顔、なんか目が離れてて平面的で、何かに似ている気がした。
「ディナーやナイトやキッチンも募集してるんだよね。そっちはどう?」
・・・・・・・・・・・・
その、何かに似ている店長の言葉に、はっきり言ってムッときた。

「あの、俺、ランチ希望なんですけど、ランチじゃマズイんですか?」
「いやいやいやいや、まずくはないよ?だけど、他の時間帯を考慮できるんだったらどうかな、と思ってさ」
「俺、ランチタイム希望です。ディナーやナイトは都合がつかないんで」
思わず強い口調になっちゃった。
「あ、そう。そうなんだ」
店長、無駄に頷いてる。

そこへ、ノックに続いてドアが開いた。ウエイトレスさんが顔を出して
「店長、すみません、ちょっと来てください」
と困り顔で言った。
「ん?なになに?・・・あ、森永君、ちょっと待っててね」
「はい」
店長はそそくさと行ってしまった。

ドアが閉まった途端。
「・・・くくくくっ・・・」
ご飯を食べてた女の人が笑い出した。
「もっと言ってやればいいのに。僕はランチ希望で出したんですけど、若い男の子がランチやったらいけないんですか?ランチしか時間取れないからランチ希望なんですけど?なんでディナーとかナイトとか勧めるんですか?キッチンなんて職種違うじゃないですか?あんた、字読めないんですか?ってさ」
「・・・はぁ」
突然話しかけられてちょっと焦ってる俺にかまわず、その人は
「ランチはね、他に主婦が2人応募してるの。だから君を他の時間帯に回せば、その2人を断らないで済むって考えてるんだよ。それにナイトとかも不足してるし、男が来たらキッチンに回して欲しいってチーフに言われてるんだよね」
なんて、内情をポロポロ教えてくれた。
「ランチはね、最近3人いっぺんに辞めちゃって、本当に困ってるの。だから絶対すぐに欲しいんだよね。君、全曜日オッケーなんでしょ?火木しか入れませんとか土日はムリですなーんて主婦雇うなら、君の方がいいじゃんねー」
ニコッと笑う。
「あ、ありがとうございます」
思わず頭を下げた。
「でもねー。ランチはキツイよ?忙しいよ?大丈夫?」
聞かれて、俺は大きく頷いた。
「はい。体力とか瞬発力には自信あります。それに、どうせやるなら忙しいほうがいいです」
「へー。なんかいいねー」
にっこり笑って
「私、アシスタントリーダーの小泉。私からプッシュしてあげるからね。よろしくね」
と手を差し出してきた。
「あ、はい!ありがとうございます!俺、森永竜太郎です」
俺たちはがっちり握手した。

その時、ドアが開いて、店長が戻ってきた。
俺と小泉さんが握手してるのを見て
「あれ?なにしてるの?」
なんて聞いてくる。
「これからよろしくね、って挨拶してたんです。だって店長、森永君採用するんでしょ?」
ニッコリ小泉さん。
「えー?まだ決まったわけじゃ・・・」
「だって店長、きのう面接に来たナントカって人は木曜日と火曜日しか出れないって言ってたじゃないですか。すぐに欲しいのは水曜日と金曜日でしょ?」
「いや、まぁ、そうだけど。でも都合つくかもって言ってたし・・・」
「そんな当てにならない話!森永君はいつでもオッケーだっていうじゃないですか?」
「まぁ・・・」
「それと、土日はダメって言ってたあのガリガリの人は、絶対この仕事に向いてないですよ。なんですぐに断らなかったんですか?後で連絡します、なんて、気を持たせるようなこと言っちゃって!」
「ええっ?向いてないなんて、そんなこと・・・」
「あら店長、見なかったんですか?あの人の腕!あんなモップの柄みたいな腕でボックスチェンジ出来るわけないですよ!すぐ骨折して労災ですよ」
「そんな、いくらなんでも・・・」
「前にもいたんでせすよ、ああいう人が!ボックスチェンジの時プルプルしてて、怖くて見てられなかったですよ。グラスだって2段持ったらヨロヨロで。結局1ヶ月もしないうち疲労で倒れちゃったんですから。絶対アレは二の舞になります」
「・・・そうかな・・・」
「そうですよ!」

うわー。小泉さん、強すぎ・・・。

その後も小泉さんは散々しゃべって
「あ、時間だわ。休憩ありがとうございましたぁ」
って出て行っちゃった。
とたんに静かになった室内。
店長がひとつ、タメイキをついた。

「まぁ、なんていうか・・・」
タメイキ交じりに店長が俺を見て
「採用ってことで。よろしくね、森永君」
と言った。

やった!
ありがとう、小泉さん。


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