2007/4/22

血の収穫  読書

久しぶりにダシール・ハメットの「血の収穫」を読んでみた。ハヤカワ文庫版の「赤い収穫」はすでに10回は読んでいるのだが、今回は創元推理文庫版を読んでみた。何回読んでもこのハードボイルド小説はいい。

ダシール・ハメットは、レイモンド・チャンドラーと並び称されるハードボイルド小説家だ。ハードボイルド小説の元祖といっても過言ではない。チャンドラーの創造したフィリップ・マーロウが“卑しい街を行く騎士”なのに対して、ハメットの作り上げたサム・スペイドは非情なまでのタフネスな探偵だ。映画ではマーロウ役をハンフリー・ボガード、ロバート・ミッチャム、エリオット・グールド、ジェームズ・カーン、ジェームズ・ガーナーなど何人もの男たちが演じているのに対し、スペイドを演じたのは「マルタの鷹」のハンフリー・ボガードぐらいだ。笑えるのはボガードは「マルタの鷹」でスペイドを、「三つ数えろ」でマーロウを演じていることだろうか。ハメットは彼の遺した数少ない作品でサム・スペイド、ネド・ボーモン、そして「赤い収穫」に登場する探偵コンチネンタル・オプを作り上げた。

コンチネンタル・オプ、すなわちコンチネンタル探偵社の探偵(オプ)という名前であって、正式な名前はない。ビル・ブロンジーニの人気小説「名無しの探偵」シリーズは、コンチネンタル・オプに影響を受けた作品といえるだろう。コンチネンタル・オプの活躍する話は「血の収穫」、「デイン家の呪い」など、スペイドのものより多くある。今回はオプを主人公にした代表作「血の収穫」を紹介したい。「血の収穫」は原題を「レッドハーベスト」と言うのだが、なぜかハヤカワ文庫では「赤い収穫」と訳されている。イメージ的には「血の収穫」の方が気分ではある。

ストーリーはこうだ。サンフランシスコ支局から汚れた街ポイズンビルに呼ばれた探偵の「俺」。しかし呼んだ男はすでに殺されていた。鉱山の街ポイズンビルは汚職と利権にまみれ、た鉱山の街だ。そこで「俺」は、街のボス、警察署長、実力者を巻き込み、血の抗争の果ての共倒れを画策する。

ここまで書くと、どこかで聞いた話のような気がする。これは黒澤明の「用心棒」ではなかったか。2つの勢力が対立している宿場町に、ふらりと現れた謎の浪人。桑畑三十郎(三船敏郎)と名乗る彼は、両方の親分に自分を用心棒として売り込みつつ、双方を巧みに争わせて壊滅に追い込んでいく。調べてみると、確かに黒澤はハメットの「血の収穫」をモチーフにして「用心棒」を作り上げている。系統的にはハメット「血の収穫」から黒澤の「用心棒」と続き、ブルース・ウィリス主演の「ラストマンスタンディング」へと続く。

ハメット「血の収穫」は一度も映画化されていない。俺は監督をサム・ペキンパー、主演をジャッキー・グリースン(「ハスラー」のミネソタファッツ役)で観たかった。「血の収穫」では全編「俺」の一人称で語られているが、コンチネンタル・オプの活躍を客観的に読むなら、ジョー・ゴアズの名作「ハメット」に出てくる探偵ジミー・ライトがそれに近い。

実際に存在するピンカートン探偵社で探偵をしていたことのあるハメットにとって、コンチネンタル・オプは自分自身を描いているのかもしれない。
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             ダシール・ハメット
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